パーツ持ち込みのコンポーネントTL Typeの一例

ご依頼主様がセレクトした―パーツを当店で組み立て調整を行ったTL Type。

「ボディ、ネック、電気パーツ等それぞれお客様がセレクト、組み立てと必要な調整は専門店に依頼」というスタイルでほしい仕様のギターをゲットすることを考えている人は多いかと思います。テレキャスタータイプやストラトタイプは海外からのボディ・ネックの取り寄せも含めればかなりマニアックな仕様も実現可能で面白い選択肢ではあります。その一方でパーツ同士が微妙に合わない、木部加工を間違えたなどの失敗は多く、意外とハードルは高いとも言えます。自分ですべてやってみるのも一つの楽しみではありますが、「難しい箇所は無理をしないで部分的にショップに任せる」というのも良いかと思います。

上画像はほとんどのパーツをご依頼主様ご自身が用意、持ち込みで当店で組み立てと必要な調整を行ったテレキャスタータイプです。以下今回のポイントを紹介します。コンポーネントにご興味がある方の参考になれば幸いです。

完成した本機のサウンドチェック動画。

まずはクリーン。アンプはFender Vibro Kingでエフェクトなし。弦はエリクサーのOptiweb10-46でレギュラーチューニング、弦高はこのスタイルのギターとしては低めのセットアップ。

 

クランチ。歪はWEEHBO Effekte JTM Drive。

 

先のクランチをXotic BB Preampでゲインブースト。

ボディ、ネックともにイイ感じのエイジド加工がされたものになっています。ボディは「元々サンバーストだった上からブラックに塗り直したものが経年の変化・摩耗で元々のサンバーストが覗いている状態」という凝った塗装・エイジド加工がされています。ボディとネックは海外の同じ工房のものですが、ピックガード、ブリッジなどは別途用意したパーツ。今回当店ではピックガードとコントロールプレートの取り付けネジの位置決めと下穴開け、内部のシールド処理、木部ザクリのサイズが合わなかった箇所や一部見られたケーブルを通しにくい箇所の改善加工をやらせていただいています。ネジ止めパーツのネジ穴を開ける際はそれぞれのパーツの位置をしっかり決めなければなりませんが、ボディに取り付けるパーツであってもネックとボディの中心がしっかりあっていることが大前提になります。シビアなのはブリッジの取り付けだけと思う方もいるかもしれませんが、意外とピックガードの位置もシビアです。フェンダータイプのギターの場合、ピックアップはピックガードに取り付けられるのでピックガードの位置が悪ければピックアップもズレます。テレキャスターの場合はネックポケット部分は勿論ピックガードとコントロールプレートの接触部分が綺麗に収まるのが理想ですが、それぞれの位置や形状がぴったり合わない場合も結構あります。そうなった場合はピックガードを削って微調整できればいいのですが、ひどいとピックガードを改めて作り直した方が良い場合もあります。今回は幸運にも追加加工なしでドンピシャに取り付けできたのですが、交換パーツとして売られているものは意外と互換性に乏しいことも多いのも現実です。ピッタリなピックガードが手に入らない場合は「専用のピックガードを作ってもらう」というのも選択肢です。
電気部分はSonic Turbo Switch TC。トーンがプッシュプルスイッチになっておりプルでフロントとリアのシリーズ接続に切り替えができます。また、ボリュームやトーンのPOTは通常のものより凝った仕様(ご興味ある方はSonicさんの情報を検索してみましょう)。 ある程度配線済みになっているキットなので今回は半田付けは少なく済んでいますが、やはり電気配線の知識は必要なもので、「誰でも簡単に」とはいかないかと思います。電気配線で判断に迷ったら理論的に回路を見直してつなぐ場所を整理する必要がありますが、それは知識がないと難しい話なので、そこのハードルが高いと感じる場合はショップに任せてしまってよいかと思います。
ボディバック。ネックプレートはステンレス製でこれもご依頼主のチョイス。ネックの取り付けはこうしたコンポーネントで一番微妙な部分で、「ネックポケットがネックに合わない」「もともと開いていたネジ穴が合わない」「ブリッジの位置とネックの位置が合わない」などなど多くの不具合例があります。ボディとネックが別々のメーカーだとこの傾向はかなり顕著になり、まして自分でネジ穴の位置を決めて下穴を開けるとなると素人DIYではどうしようもなくなることが多いようで、当店でもこれらの対応でネックポケットを微妙に拡張したり、掘り下げたり、嵩上げしたり、失敗したネジ穴を埋めて開けなおしたり、ブリッジの位置を移動したりといった処置は今回のようなコンポーネントギターでのご依頼で多いです。ネックの取り付けは角度が1°、距離が1mmずれるだけでも不都合が出てくる上、穴を開けたり削ったりする加工は失敗した場合のリカバリーも難しいので無理をせずにショップに任せた方が無難です。また、ネックを固定するビスも種類があり、あらかじめビス穴はあけられていてネックポケットもしっかり合うボディとネックであっても用意したビスが細すぎるとネジ穴がかまなかったり、すぐに緩くなったりしますし、反対にビスが太過ぎるとビス穴が割れてしまったり、きつすぎてネジが内部で折れてしまったりなんてことも起こりやすい事故です。木部加工だけでなくパーツのセレクトにも注意が必要なわけですが、入手したネックにあらかじめビス穴があけられている場合はビスは自分で用意せず、ショップに相談してビスを決めるのも一考です。
ネックはもともと塗装の上でエイジド加工、フレット打ち込み、ナット取り付けまでされているものでしたが一部フレットがしっかり打ち込まれていなかったのと擦り合わせはされていないものだったので 当店で打ち込みが不十分なフレットの修正とフレット擦り合わせ、ナットの作成・調整(後述)等を行わせていただきました。 実はネックのみで販売されているものの場合、こうした仕上げの処置はされていないか不十分なことがほとんど。別にメーカーが手を抜いているわけではなく、多くの場合で「必要に応じてすり合わせしてください」といった案内もされていますが、そういった部分は見落とされがちかもしれません。「パーツを集めて組み立てれば完成」ではなく「組み立ての際しての加工調整や仕上げを経てやっと完成する」わけですが、そのあたりの作業はDIYで組み立てる場合の大きなハードルでギターの演奏性に直結する部分でもあり、なおかつ技術・知識がないと対処できない部分です。それだけにDIYで挑戦するのも面白い訳ですが、ちゃんとやろうとすると道具立てだけで結構なコストになりますし、何しろ簡単な作業ではないので、DIY自体が目的ではないならショップに任せてしまうのがお勧めです。
フレット端の面取り加工も当店で施工しました。また細かいところですが、指板側面のエッジ部分の面取り加工も施しています。これらによりネックの握り心地を良くすることができます。一見簡単にできそうにみえる処置かもしれませんが、面取り加工はやりすぎるとかえってフレットの底面エッジに指があたりやすくなったり弦落ちしやすくなるなどもあるので注意が必要です。
 今回のネックのナット幅は41mmで細めのネックです。このネックはナットも取り付けられた状態で入手したもので、ナットには弦を納める溝も浅く掘られていました。その弦間ピッチは約7.2mmだったのですが、経験的にこれだと1,6弦の弦落ちがかなり起きやすいと考えられたので、ご依頼主様に相談の上で弦間ピッチ6.9mmでナットごと作り直しさせていただきました。当店での場合弦間ピッチは0.1mm単位(場合によっては0.05mm単位)で調整します。
 ストリングリテイナーの取り付けも当店で行っています。このパーツ、取り付け位置が多少ずれても問題なさそうですが、パーツ自体のサイズが弦間距離より広すぎたり狭すぎたりは日常茶飯事なのでちょっとの位置ずれでチューニング不安定の要因にもなりやすいと思います。また、リテイナーの下に入れるスペーサーの厚みによって弦がナットを抑える力の変化は音に直接影響しますし、チューニングにも影響するのでスペーサーの厚みもちゃんと検討した方が良い結果につながりやすいです。今回持ち込まれたストリングリテイナーには厚さ2.5mmのスペーサが付属していましたが、いくつか試して最終的には当店で用意した厚み4mmのスペーサーにしました。
ペグもご依頼主様持ち込みのエイジド品のクルーソンタイプ。クルーソンタイプの場合、ブッシュが合わない場合が結構ありますが今回は無問題。
ネックの裏は大胆に塗装がはがされています。これもエイジド加工の一環で施されたものかと思います。このネックはナット幅は41mmのナロータイプですが、厚みはあって握った感触はしっかりしてイイ感じでした。

以上が今回のコンポーネントで当店で行った主な作業です。最後にネック調整やオクターブ調整、弦高調整等の基本的な調整も施工、生音のチェックでバランスに問題があれば微調整、さらにアンプからの出音をチェック、PUの高さを調整して完成です。エレキギターの場合、ピックアップなど電気部分でもキャラクターの変化はありますが、生音でしっかり鳴っていない部分はいくら電気部分をいじっても補えないのでやはり生音でしっかりバランスがとれていることは必須だと思っています。また、PUと弦の距離によってもかなり音が変わるのでそこの調整も重要なのですが、DIYで調整をしている方の多くがPUと弦の距離の調整が不十分か挑戦してみたものの間違った方向に調整してしまって失敗しているケースは非常に多いと思います。調整の操作自体はネジを回すだけがで簡単なものの「この音でOKかどうか」の判断は自宅音量では難しいかもしれません。結果的にPUが弦に近すぎる、複数のPUのバランスが悪いということに陥りやすいので、判断が難しいと感じたらとりあえずリペアショップに相談するのがお勧めです。

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