当店ではネット上での商品紹介の際、以下の表現、表記は意味が独り歩きしてしまって実際の状態がうまく伝わらないことがあったり、誤解を生じやすいと考え、これを用いないようにしております。ご了承いただけますようお願い申し上げます。
●「フレット残量〇%」「フレット残り〇割」
感覚的には「フレット残90%」という表記をみると「フレットの摩耗は少ない」と思ってしまう方が多いのではないでしょうか。実際のところ残量9割を正確にみた場合どうでしょう。以下、考えてみます。
新品ギターのフレットの高さはおおよそ以下の範囲に収まると考えられます。
スモールフレット・・・・・・・・1.0~1.2mm未満
ミディアム・ジャンボフレット・・1.1~1.3(一部1.4)mm未満
これを基準に「フレット残90%」の減り具合を考えると、0.1mm~0.14mmとなります。「コンマ〇mm」のスケールとなると多くの人にとっては「ほんのちょっとの減り」と思われるかもしれませんが、実はフレットが0.1mm摩耗するのにはかなりの弾きこみが必要で、当店ではこのくらいの状態で「結構減っている状態」「結構弾きこまれた」と考えています。仮にそこに至るまでフレット擦り合わせなどを行っていない場合、押弦によるフレットの凹みはポジションによっては顕著に目立ち、頻繁に弾くポジションと弾かないポジションの摩耗量差は許容を大きく超え、音のビビりや詰まりが出ていることが多いと思います。
一方「必要に応じてフレット擦り合わせがされてきたギター」の場合はどうでしょうか。
フレットの擦り合わせがしっかりされている楽器の場合、フレットの摩耗量が正確に0.1mmあっても演奏性は確保されていることが多く、下手な新品よりも弾きやすい場合も珍しくないと思います。0.2mmくらいまで摩耗している場合は新品時との差が顕著になり弾きにくさを感じてくることも多いですが、「摩耗量0.1mmでフレット擦り合わせなどメンテはしていないギター」よりはるかに演奏性は良好かと思います。ただ、ここまでくると摩耗量としてはかなり多く、場合によってはフレット交換をした方が良い程度でもあると考えられます。
ところで、正確にフレット残量を算出する場合、当然ながら「新品時のフレットの高さ」を知る必要があります。しかし、製造の工程でもフレット擦り合わせは行われるのが普通ですし、その「初期摩耗量がどのギターも同じ」という事はないでしょう。メイプル指板の場合は塗膜の厚みもフレットの有効な高さ(指板表面からフレット頂点までの高さ)に大きく影響を与えますので、塗膜の厚みも知る必要が出てきますが、それを正確に知ることは難しく、結局のところ「新品時のフレットの高さ」を予測する以外ありません。
以上から、この表現「フレット残量〇%」には次の懸念があるといえます。
・フレットの摩耗量正確に表していない・誤解させる
・演奏性の良し悪しを表していない・誤解させる
以上のことから当店では「残〇割」という表現はできるだけ避け、ビビり等の原因となるあるいはフレット擦り合わせの目安となる「フレットの凹み、浮き、高さのばらつきの有無」といった点を重視して紹介するようにしています。また、フレット擦り合わせを行ってから出品している場合はその明示、「フレット交換も選択肢に入るくらいの摩耗量」のものについてもその旨を明示してます。
●「トラスロッド残り〇周」
トラスロッドの操作性はネックの設計による差、仕込み精度の差、ネック材の個体差・個性(反り・変形の傾向)、使用する弦の種類・太さなどによって個体差が大きく、同じ機種間で全く操作性が異なることも珍しくありません。また、別の角度から考えると、「トラスロッドへの依存度が高いネックと低いネックがある」という事も言えます。つまり「1周回して調整できる量」は千差万別で、「〇周回ったから大丈夫」とは言えませんし、「〇周回らないからダメ」とも言い切れません。また、これらは「弦を張っている状態」で見るか「はていない状態でみるか」で変わりますし、「細い弦を張ったネック」と「太い弦を張ったネック」でも異なってくるはずです。
理想的なトラスロッドは少ない回転操作でしっかりネックの反りが改善するもので、そういったネックであれば回転できる量が少なくても「十分な調整幅があるトラスロッド」と考えてよいと思います。一方、1周、2周と回しても反りがそれほど改善できない場合は「十分な調整幅がないネック」である可能性があります。これはトラスロッドのせいばかりでなく、弦の張力や、ネック材の個性が大いに影響しますので、「トラスロッドがどれくらい回るか」ではなく「トラスロッドを回すことでネックがどう変化するか」を把握した方がより現実的と思います。
トラスロッドを締め切った状態でまだネックが順反っているものや、緩めきった状態で逆反っているいるようなものは論外ですが、基本的にはトラスロッドが限界に近い場合はトラスロッド調整による順反り矯正量も小さくなり、締め込みトルクも固くなってきますので、「余裕があるかどうか」は慣れれば判断できます。
トラスロッドの調整は一気にたくさん回さずに様子をみて少しずつ様子を見つつ回すのが定石です。当店の場合、ノーマルなトラスロッドが使われているギター・ベースのネック反り矯正力のチェックでは一般的な弦をレギュラーチューニングした状態でネックを標準的な状態にした後、さらにトラスロッドを締めこんで逆反り方向にネックがちゃんと動くかどうか(緩めて順反りになるかどうか)を確認、それを数回繰り返します。また、その過程で順反り矯正力の場合は回すトルクが固くなりすぎないかで皿なら矯正の余地を判断、逆反り矯正チェックの場合は早すぎる段階で緩み切ってしまわないかどうかでも判断します。
前述のようなチェック方法をとっているのは「トラスロッドは必要に応じて調整するものであって、いたずらに締めこむものではない」と考えているからです。トラスロッドが正常に機能している場合にトラスロッドを一気に回転させたり、過度に締めこむと指板剥がれやねじれを誘発する恐れもありますし、その過程で一時的にでも激しい逆反り状態になった場合、フレットが浮いてしまう心配もあります。そういったことから当店では中古ギターの状態を確認するために「トラスロッドを限界まで回してみる」という方向ではなく、「通常の範囲のトラスロッド操作でしっかり反りが矯正されるかどうかの確認」を重視しています。必然的に中古楽器の状態の案内に「トラスロッド残り〇周」という表記も行っていません。重要視すべきは「通常のトラスロッド操作でしっかり反りが矯正できるかどうか」かと思います。
実際にどのように表記しているかですが、基本的には問題がないと考えられるものは「トラスロッドに余裕あり」という一句です。弦はごく一般的なゲージをレギュラーチューニングで張っていますが、例えばその弦より一ランク太い弦・細い弦では余裕がなくなると考えられる場合はその旨も付記しています。また、余裕がないと判断しているものについてはその旨の記載と、必要に応じて「どのように扱えばプレイアビリティを確保できるか」といったことにも触れるようにしています。例えば「トラスロッドが限界近く、10-46の弦でレギュラーチューニングではネック調整が仕切れない可能性があります。09-42の弦にするか、チューニングを下げて使用するのであれば管理をしっかりすればOK」「順反り矯正は限界ですがフレット擦り合わせや指板修正である程度の復帰が可能」といった具合です。一般的なエレキギターでは09~42や10~46のゲージの弦が張られることがほとんどですが、これらのゲージのまま極端にチューニングを下げて使用する場合や12~54といったヘヴィゲージでレギュラーチューニングにしたい場合などは個別にご返答いたしますので、その場合はご遠慮なくどうぞ。
●「ネックはストレート」
ネックの状態は「若干順反りの状態」が良い状態と考えているメーカー、ビルダー、リペアマン、ギタリストが多いようです。当店でも同じ考えで「完全なまっすぐ」を求めるのではなく「若干の順反り」を求めて調整を追い込みます。しかし、ネット上の商品紹介では「ネックはストレート」といった表現が用いられることが多く、「まっすぐでなければならない」といった誤解も生じているように思います。仮に完全なまっすぐな状態に調整した場合ですが、演奏時のネックの振動成分には「ストレート」⇒「順反り」⇒「ストレート」⇒「逆反り」(あるいはこの逆)の繰り返しが含まれ、演奏中にネックが逆反りしている瞬間が存在していることになります。実際に「ストレートに調整していたネックを若干順反りに調整しなおしたらビビりが減少した」ということは珍しくありません。
ネックを一様にみるのではなく、弦毎にみるとどうでしょうか。ナットからハイフレットまで一定の指板Rで制作されたギターの場合、1,6弦直下の指板面が完全なストレートになるように調整した場合、3,4弦直下はやや順反りになります。3,4弦直下をストレートにすれば1,6弦は「逆反り」です。つまり弦毎に見ても反り具合が異なっていることが普通です。また、1弦側と6弦側で反り具合が全く同じではなく、多少差があるのは珍しくありません。弦の張力は1弦から6弦までバラバラですし、何よりネックに用いられている木材の個性・癖もあるからです。浪打やねじれがあるネックは論外ですが、問題ない範囲内でもこういった個性が散在しているのが普通です。もっともこう言った細かい理屈まで一人一人の購入者が知っておく必要はなく、あまり細かく状態を示すとかえって混乱してしまいやすい面もあります。
以上、当店では「ストレートなネック」が適切な状態ではないと考えていることから、これを極力避け、反り具合について問題があると考えられる場合はその内容と、必要に応じてどのようなメンテが必要かなどを表記するようにしています。