Ibanez LR-10 リー・リトナーモデルセミアコのメンテナンス

1983年製のIbanez Lee RitenourモデルセミアコLR-10。

上画像はIbanez LR-10、1983年フジゲン製造のリー・リトナーモデルです。当店で調整させていただいたものですが、珍しい機種なのでレポートさせていただきます。

今回当店で行ったメンテナンスはネック調整などの基本的調整と、打痕の簡易補修、割れたエスカッションの補修です。本機は改造やパーツ交換などはなくオリジナル状態を保っていました。Lee本人の意向を取り入れていてデザインされたものと思われますが、特に強い拘りが感じられるのはネック。マホガニー+メイプル+マホガニーのネックは当時のメーカー製品ではめずらしかった非対称シェイプ、さらに指板は当時すでに希少材だったブラジリアンローズウッドにブラスナットという仕様。フレットは実測で幅2.7mm、高さ1.1mmくらいのミディアムサイズ。ピックアップがLeeの名前を冠したオリジナルモデルであることや、センターブロックがマホガニー(セミアコの代名詞ES-335はメイプル)である点などもポイントかと思います。

サウンドチェック。ES-335比べると軽やかな印象でしたが、ミュージシャンモデルにありがちな癖の強さはなく色々なジャンルで使えそうな感触でした。

クリーン。アンプはFender Vibro Kingでエフェクトなし。

 

ちょっとだけ歪ませたクランチ。歪はWEEHBO Effekte JTM Drive。

 

ゲイン高めのクランチ。機材は同じ。

 

ヘッド。ブラスナットは当時の流行もあっての採用だったのでしょうか。ペグはARシリーズなどでも採用されていたタイプで、Fenderのクルーソンタイプのような弦の張り方と通常の張り方両方に対応しています。今回は通常の張り方で施工。
本機をお預かりした時はマダガスカルローズかと思ったのですが、当時のカタログを調べたら「指板:ブラジリアンローズウッド」と案内されていました。当時もすでに希少材だったのですが、本機の定価は¥145,000という設定。これがLeeの拘りだったのか、それともマーケティング上の特別感を出すためだったのかわかりませんが、弾いていてテンションが上がる仕様なのは間違いありません。生音で弾いていても気持ちの良い音でした。
ネックはメイプルを両サイドからマホガニーで挟んだ3ピース仕様。握りは頂点をセンターよりも少し1弦側に寄せた非対称シェイプ。ナット幅は43mmあり国産のエレキギターとしてはしっかりとした幅がありますが握りにくいということはなくフィンガリングがスムーズにできる印象でした。
矢印箇所には長径7mmほどの打痕、他にもネック裏に細かい陥没打痕が数か所あり、ネックを握った際に打痕箇所に違和感を感じるということで、今回はこれらの陥没打痕を樹脂で埋めて平らに均すという簡易的な補修を行い、違和感をなくしました。画像左では明らかに打痕があるのがわかりますが、画像右で蛍光灯の映り込みの歪みがほとんどないことから打痕の痕跡は視認できるものの、凹みは解消され平に均されていることがわかります。見た目を綺麗にするためにはもっと大掛かりなタッチアップが必要ですが、弾き心地だけを気にする場合はこうした簡易的な修理も有効かと思います。
ピックアップはLee Ritenourの名を冠したオリジナルのもの。3点止め仕様で角度調整もできますが互換性のあるエスカッションは現在流通していないのが泣き所。今回はフロント側が割れてしまっていたのでこれを補修しています。
フロントのエスカッションの補修痕。割れた箇所を接着するだけでは強度が出ないので裏側から樹脂で肉盛りしています。また、新たに盛り付けた樹脂内にはグラスファイバーを入れて強度を稼ぎました。どうしても修理痕は残るものの強度的にはむしろ頑強になりました。
サーキットは部品ごとにアルミシートでシールドされています。同様の処置の日本製箱モノギターはちょくちょく見かけます。中にはパーツ毎に鉄製のカプセル状のシールド部品で覆ったジャパンヴィンテージのギターなどもあります。箱物ギターの場合こうしたシールド処理を加えるともともと煩雑な組み込みがさらに大変になるのですが、それでもシールドするのは日本メーカーの根性!

本機は製造から40年ほど経過しています。打痕や弾き傷はあるのでそこそこ弾かれていたとは思いますが、管理が良かったのかオリジナルの状態はしっかり保たれ、しかも摩耗も少なめ、電気パーツもまだ現役という良好なコンディション。これくらい古いものになると、フレットの浮きや摩耗などによる高さのばらつきなどがあることの方が多く、フレット擦り合わせやフレット浮きの補修がを行う事が多いのですが、今回はそういったこともほとんどなく、指板のクリーニングとネック調整や弦高調整、オクターブ調整といった基本的なメンテといくつかのネック裏の打痕と割れたエスカッションの簡易的補修だけで本領発揮できる状態になっています。

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