Fender Japanのミディアムスケールストラトをオーバーホール!
画像はHeavy Gauge GuitarsにてオーバーホールさせていただいたFender Japan のST-43Mと思われるミディアムスケール(弦長628mm)のストラトです。需要はありそうで品数がなかなか少ないミディアムスケールのストラト、今回ご依頼主様にご許可を頂いた上で以下にレポートします。
現在の持ち主様は本機を中古で入手、入手時から金属パーツはゴールドパーツで画像のミントグリーンのピックガード(おそらくは以前の持ち主さんによる自作)に最近の廉価ギターでよく見られる電気パーツでした。ネックはフレット交換がされていたようですがほぼすべてのフレットが浮き上がりなどで高さが不揃いになってしまっていてかなり弦高を高くしても音詰まりが出るような状態でし。ネックには「ST-43M」の刻印と同モデルが生産されていた時期(2002年前後)のシリアルナンバーもありました。ボディ材は当時のカタログではバスウッドとなっていますが本機はアルダー。Fender Japanブランドは初期のころからミディアムスケールのストラトがラインナップされていましたが、いずれもカタログ上のボディ材はアルダー以外のバスウッドやポプラ、センなどだったのですが、カタログ外でアルダー材のものもあったのかもしれませんし、全く別のギターのボディとのコンポーネントという可能性もあります。実際ネックとネックポケットのサイズが合わなかったので補修を加えました。そんなわけでST-43Mのネックと別ボディを組み合わせた可能性もあるので機種名はあいまいです。
今回のオーバーホールは「ミディアムスケールである以外はオーソドックスなストラトにする」という方向性で実施、主な処置内容は以下の通り。
①Rの崩れた指板の修正、フレット・ナットの交換の上で全体の調整。
②ゴールドパーツはすべてニッケルまたはクロームメッキのものに交換、オーソドックスなストラト狙いでペグはクルーソンタイプ、シンクロトレモロはスティールブロックのものに。
③電気部分の廉価パーツは実績のあるものへ入れ替え再配線。シールド処理。
以下詳細
ボディ材はアルダーでおそらく元々は赤系の塗装だったものを現在の色にリフィニッシュされた履歴があると思われます。お預かり時はゴールドメッキのシンクロトレモロにジャックプレート、ピックガードのビス、ストラップピンでしたがすべて見た目をシルバーのものに交換。新しいブリッジはGOTOH製のオーソドックスなシンクロトレモロでヴィンテージのストラトを踏襲したスティールブロックのものをチョイス。ブリッジ部の弦間ピッチは11.3mmで小ぶりに作られたストラトとしては広いものですが、本機のネックはナット幅はナローなものの21フレット付近では通常スケールのストラトと変わらないのでこのピッチでも大丈夫です。
トレモロスプリングは3本掛けでフローティングに調整。ネックプレートとネックビスもシルバーのメッキのものに交換。
新しいジャックプレートのねじ穴位置が合わなかったので一か所だけ古いネジ穴を埋めて新しい穴を開け直しました。また、ボディザクリ内はシールド塗装がされていたものの塗膜が薄すぎたり塗装が乗っていない箇所もありシールド効果が不十分と思われたので再塗装を実施。この画像ではゴールドのストラップピンがついていますが後からニッケルメッキのものに交換、その際、ピンを止めるネジも脱落予防力を高める目的でねじ山のピッチがほぼ同じで直径は一回り大きく長いビスに交換。
配線した電気パーツ。スイッチは米産FenderではおなじみのOAK5Way、POTはCTS Custom POT A250kΩ、コンデンサはOrange Drop 716P 0.047μF、配線材は主に古河電工BX-Sを使用。ピックアップはわかりやすい音質とコスパの良さを併せ持ったFender Tex Mexを選択。画像には写っていませんがジャックはSwitchcraft Mono Jack #11です。2つあるトーンはフロント専用とセンターとリア共用に配線。ピックガード裏のアルミシールドはPUの横に小さなつぎはぎのような箇所がありますが、これはハイ落ち対策で詳細は秘密。
ピックガードはよく見ると手作業で削った痕か残っていたり、直線が歪んでいたり、位置が少しずれていたりなどしています。Fender Japanのミディアムスケールストラトはスケールに合わせてボディも少し小さくデザインされ直していてピックガードもそれに合わせて型起こしし直したものだったと思いますが、そうなるとピックガードを自分好みに変えたくても互換性のある交換品はまず手に入らないので、色を変えたければ作るしかなく以前のオーナーさんは苦労して自作したのだと思います。今回電気部品を入れ替えるにあたってスイッチのブレードが入る長方形の穴についてはスイッチ操作に支障があったので修正を加えました。また、ピックアップやスイッチを取り付ける穴の径が新しいビスの径より小さかったので適切なサイズに広げました。画像はそうした処置を行う前のもの。もともとついていた電気パーツがミリ規格のパーツだったのでそれに合わせて作られていたのだと思います。POTの穴についてはミリ規格サイズ(約8mm)のままですが、今回選択したCTS Custom POTにはmm規格品があるのでそれで対応。
ネックポケットがネックに対して大きすぎで演奏中にネックがずれてしまいやすかったのでメイプル材でネックポケット内壁の肉付け修正を行いました。ネックポケットに露出している木部からアルダー材であることがわかります。
フレット交換後のネック。お預かり時はフレットの浮きがありなどによってかなり弦高を高くしても音詰まりが多発する状況だったのですが、フレットだけでなく指板のRもかなり崩れていました。今回のフレット交換にあたっての指板修正で1フレット付近が約10インチ、最終フレット付近が約11インチとコンパウンドラジアス寄りの指板になりました。「ハイポジションはもっと緩やかなRになるように削っても良かったのでは?」と思われる方もいると思いますが、今回の場合も含めこうした指板修正では「なるべく指板を削る量を少なく抑える」という前提もあり、このような結果になっています。勿論必要があればもっと削るのもやぶさかではないですが、今回の場合はここまでで十分と判断しました。最終的にこの処置とフレット交換としっかり調整を行うことでにより低めの弦高にしても音詰まりは無くなりました。
新しいフレットは国産のジャンボ(三晃SBB215の高硬度品)を選択。ナットはラクダ骨から削り出し制作。ナット幅約40mmというナローネックなのでナット部の弦間ピッチも小さくしています(ナット弦間ピッチは通常のストラトだと7.0~7.2mmくらい、今回は6.65mmくらい)。
ヘッド。ペグはもともとゴールドのロトマチックタイプが搭載されていましたが、オーソドックスなクルーソンタイプ(GOTOH SD91)に交換。これに伴い新しくねじ穴を開けています。古いネジ穴も残っていますが、下手に埋めても痕は残りますし、古い穴を残しておけばあとからロトマチックに戻すことも簡単なのでそのままにしました。ペグポストを通す穴の径はSD91付属のブッシュには大きすぎなので別途コンバージョンブッシュを介して取り付けています。ヘッド表面はリフィニッシュされており、ボディカラーに合わせたマッチングヘッド。画像ではわかりませんが、よく見るとFRT搭載機で使用されるテンションバーを取り付けたネジ穴を埋めた痕がありました。以前の持ち主さんがいろいろ改造をしてたことが伺えます。
サウンドチェック。アンプはFender Vibro King。
まずはクリーン。エフェクトなし。
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クランチ。歪はWEEHBO Effekte JTM Drive。
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先のクランチをXotic BB Preampでゲインブースト。
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もともとミディアムスケールのストラトやテレキャスはレギュラースケールに比べてイマイチFenderらしさが出ない印象を持っていたのですが、本機はオーソドックスなストラトらしいサウンドで印象が先入観だったと思いました。
弦はDaddario EXL110(10-46)でレギュラーチューニング、弦高は1弦12フレット1.3mm、6弦1.8mm、トレモロは3弦開放を約1音アップできるフローティングにセットアップ。
今回のオーバーホールで元の状態からは想像がつかないくらい大化けしましたが、交換した部品はオーソドックスなもので、フレット交換などのメンテナンスも通常の処置で特別な工夫をしたでもなく「しっかり調整することでいい感じになる」という好例になったかと思います。