レスポールタイプのナット交換例:Gibson Les Paul Classic 2000年製

Heavy Gauge Guitarsでナット制作・交換させていただいたGibson Les Paul Classic。

 上画像は当店Heavy Gauge Guitarsにてナット交換とフレットすり合わせ等をさせていただいた2000年製のGibson Les Paul Classic。元々「音が詰まる、バズが大きい」という症状があり、持ち主様が弦高を上げてみたものの解消せずに当店に持ち込まれた経緯があります。実機を点検させていただいたところ「ナット溝の深さがフレットの高さに対して過度な箇所が複数ある」「浮き上がっているフレットが散見される」ことを確認、それらが前述症状の要因になっていると判断、フレット浮きの補修の上でフレットすり合わせ、さらにナットを新調することで解決を見た例です。

 

 最初に古いナットの取り外し。オリジナルの樹脂製ナットがついていましたが、2000年製なので23年経過、それなりに傷んでいました。画像左は取り外す前。製造時はナットを取り付けてから塗装されておりナットにも塗装が乗っているの箇所が多いのでオリジナルのナットだと判断できます。余計な部分まで塗装を傷めないように注意して外したのが画像右。塗装が飴色に焼けています。
 次にフレット浮きの補修。画像の赤く塗った個所が浮き上がりが見られたフレット。こうしたフレットをそのまますり合わせしてしまうと見た目の高さは揃っていても押弦によってそのフレットは沈むことがあるため前後のフレットと高さが合わずバズや音詰まりは解消しません。浮いたフレットでも再プレスでしっかり固定されるものもありますが、そうならない場合は補修を行います。補修方法は大雑把に「浮き上がったフレットの溝に樹脂(程度によっていくつかの粘度を使い分ける)を流し込み満たした上で化学反応で一気に硬化させ動かないようにする」という処置になります。場合によっては該当するフレットを一度抜いてRをつけ直して再打ち込みという方法もありますが当店ではめったに行っていません。また、フレット浮きが重度でフレット全体が浮き上がっているようなケースではフレット交換してしまった方が予後良好で、コスパにも優れる場合もあります。今回の場合、ナットが限界の割にはフレット上面に生じている凹みは比較的軽度でした。フレットが浮き上がったことで相対的にナットの限界が早まったということも疑われます。幸いフレットの高さは十分あり、フレット交換せずに対処可能でした。
 フレット浮きの補修+フレットすり合わせを終えたところ。フレットが綺麗になっているのは勿論ですが、指板もきれいにリフレッシュしています。ローズウッドやエボニーなど裸で指板になっている材の場合はフレット浮き補修に際して指板全体の仕上げをやり直すのでこのようにきれいになります。
 次はナットのスロット(取付溝)のクリーニングと修正。画像左はオリジナルのナットを外した状態。古い接着剤がたくさん付着しています。画像中央は古い接着剤を削り落としつつ適切な面に整えている途中。白い削り屑が古い接着剤です。この段階ではまだ接着剤しか削れていないのですが、木部まで切削が進むと削り屑の色が変わるのでわかります。木部の切削を最低限にとどめ、なるべく古い接着剤が残らないように慎重に処置した結果が画像右。ネック材のマホガニー本来の色が出ていることがわかります。この画像ではわかりにくいですが接着剤はスロット底面だけでなく前面(指板に接する面)やヘッド側の突板にも付着しているのでそれらもできる限り除いています。
 今度は新しいナットの制作です。今回はCamel Boneから削り出して制作しました。左が削り出し前のブランク材。中央がギターに合わせて削り出して形状を整えた状態(この段階ではまだ仕上げはしません)。右はオリジナルのナットです。この段階ではナットの高さは大き目にしていて、最後の仕上げ切削でさらに形状を整えます。
 削り出したナットを取り付け、接着固定。弦位置をしっかり決めて溝をつける作業はナットがしっかり固定されていた方が高精度でできると考えているのでここで接着という手順にしています。この後の弦位置を決めて溝を切る工程で失敗すると1からやり直しになってしまうのでここからはより慎重に作業します。
 今度は弦の位置と弦間距離を決めて弦溝を掘り始めます。まずは各弦の位置を決める作業。弦間を正確にそろえるために紙に弦間ピッチを印刷したものをガイドにして弦位置を決めて最初の細い溝をつけます。弦間ピッチはオリジナルのナットを参考にした7.1mmピッチを選択。お好みや楽器の仕様によって弦間ピッチは0.05mm単位で選択可能です。当店では6本弦のギターの場合は基本的にすべての弦間を同じにすることが多いですが、多弦ギター、ベースでは低音弦側は少し広めにとった方がバランスが良くなることも多いのでその辺はフレキシブルに対処しています。実際にメーカー製の多弦ギター、ベースでもそういった仕様になっているものをよく見かけます。
 弦間ピッチの精度と同じくらい重要なのが6本の弦の位置をネック中心から少しだけ1弦側にするというところだと考えています。具体的にはギターの場合は1弦側の方が6弦側より指板端からの距離が0.5mm前後近くなるように設定するとが多いです(弦の中心を基準にした見方です)。1弦と6弦では太さが1mm異なるので弦の中心で弦間ピッチをとる場合は0.5mmほど6弦側に余裕もたせることで見た目も演奏性のバランスも良くなります。
 画像は最初の弦溝を付けたところ。この後ガイドを外して弦を低いチューニングで張り、そのチューニングに合わせてトラスロッド調整・弦高調整(この段階では作業精度を高めるため演奏時よりもかなり低い状態にセット)の上で各弦溝を少しづつ掘り下げます。ネックはハイポジションほど幅広く、弦間ピッチもだんだん広くなるので、弦溝は各弦同じ方向にまっすぐではなく末広がりのネックに合わせてごくわずかに放射状に掘ってゆきます。
 弦溝を掘り終えて溝の底に磨きを加えたところ。溝を掘る作業は専用の金属製やすりや極細の目立てやすり、極細の丸やすりなどを使い分けて行っています。これらのやすりで削った後は摩擦抵抗をなるべく抑えるように研磨剤で研磨処置を加え弦溝作成は完了です。画像では6弦溝の内部に艶が出ているのがわかりますが、これは研磨剤で磨いたことによります。弦溝がかなり深くナット両端のエッジもたっていますが、この後のナット上面・両端の形を整える工程で適切な深さ・形状になります。
 各弦の弦溝が仕上がったら、ナット両端の面取り、ナット上面の高さ調整と仕上げのための切削を行い、ナット表面を磨き上げて完成。画像左は磨き上げまで完了したところ。右は弦を張ったところ。ナットの高さも調整され、前の画像の状態よりも弦溝が浅くなって適切な状態になっています。ナット両端は手触りが良くなるように丸みをつけました。オリジナルのナットの形状と比べるとより丸くなっているのがわかります。お好みによってはオリジナルに近い角ばった形状でも良いと思いますが、引っ掛かりやすい形状だとナットを欠いてしまうような事故も起こりやすくなるので特にご希望なければ丸みをつけさせていただいています。

 最後にノーマルチューニングにして再度トラスロッド調整、弦高調整(弦高は1弦12フレット1.3mm、6弦1.8mmにセット)、オクターブ調整等セットアップを済ませてサウンドチェック。

クリーンサウンドでのチェック。アンプはFender Vibro King。

 

クランチ。歪はWEEHBO Effekte JTM Drive。

 

先のクランチをXotic BB Preampでゲインブースト。

 

以上のメンテナンスの結果、バズや音詰まりは無事解消、ご依頼主様にもご満足いただけました。

 今回フレット浮きの症状があったわけですがこうした状態になっているギターは思いのほか多く、フレットの高さが不揃いになっている主な要因と言って過言ではないと考えています。フレット浮きが生じるありがちな原因としては以下が考えられますのでギタリスト、ベーシストの皆様には是非ご留意いただければと思います。

フレット浮きが生じるありがちな原因
  1. 保管時、弦を緩めすぎ(半音下げ程度で緩めすぎのことも)
  2. ネックが逆反りしている、チューニングに合った調整になっていない
  3. 指板痩せ、摩耗、汚れ固着。汚れの長期放置
  4. 劣化・摩耗した弦をいつまでも張っている
  5. 保管環境の問題(温度・湿度の日常変化が大きすぎる)

 

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