高めの弦高を許容することでとりあえずは基本調整でいい感じになった例:Fender Japan ST62-770LS

Heavy Gauge Guitarsにて調整させていただいたFender Japan ST62-770LS。

 画像は当店で調整をさせていただいた1989~90年製のFender Japan ST62-770LSです。長く保管されていたギターで、現在の持ち主様から本機をこれから弾き始めるにあたっての調整のご依頼をいただきました。お預かり時の状態は外観の損傷こそ少なく、ピックアップも正常だったものの他の電気パーツ正常に機能せずちゃんとした音が出ませんでした。また、ネックはフレットの浮き上がりが散見され、それによる音詰まりや過度なバズで気持ち良い音が出ない状況。持ち主様にとってはこれからどうこのギターと付き合って行くかは固まっていないということもあり、いきなり高いコストと時間をかけてすべてのメンテナンスを行うのではなく、「とりあえずは基本的な調整にとどめてバズ等回避のために高めの弦高にし、機能しなくなった電気部品は新調、ノーマルストラトに再配線」で行くことになりました。

 フレット浮きがあるなどフレットの高さにばらつきがある場合、特に弦高を低めにセットしたギターでは演奏への支障が顕著に出ますが、弦高が高いほど健在化しにくくもなります。本機ST62-770LSの場合、指板Rの都合で高めの弦高の方が本領を発揮しやすいギターであるということもあり、今回のメンテ内容でも十分演奏を楽しめる状態には持っていけたと思います。後は持ち主様が本機を弾き込んで、方向性が固まったら追加でメンテナンスするのも良いと思います。例えばサステインを強化したいなら大き目のフレットに打ち換える、低めの弦高にしたければフレット打ち換えの際の指た修正で指板Rも修正を加える、自分の出したい音によりあうピックアップに交換するなど考えられます。こういったことはまずはそのギターを弾き込んで行かないと具体的になりにくいことでもあるので今回のようなスタンスでメンテナンスするのも良いと思います。

 以下レポートが同様のケースの参考なれば幸いです。

 

 メンテナンス後のボディトップ。元々搭載されていたFender Lace Sensor Gold×3は正常なのでそのまま残しました。Fende JapanオリジナルのMid Boostサーキットやボリューム、トーン、スイッチ、ジャックなどは機能していなかったり動作が怪しかったりしたので信頼のおけるパーツに交換再配線。
 左は元々のサーキット。右は配線し直したもの。元々は9V電池で駆動するMid Boostサーキットを介した凝った仕様でしたが、故障していたMid Boostはオーソドックスなストラト配線に変更の上で再配線。Lace SensorはアクティブPUと勘違いされることがありますが、パッシブPUですのでこうした配線でOKです(本レポート最後のサウンドチェック動画をご参照のこと)。POTはCTS Custom POT、スイッチはOAKの5 Way Switch、ジャックはSwitchcraft Mono Jack#11、ケーブルは古河電工BX-Sです。コンデンサーは低コストながらトーンとしての機能には十分な低耐電圧の国産PPコンデンサー。いずれもご依頼主様と相談しながらセレクトしたパーツになります。
 メッキがくすんでいたブリッジは研磨クリーニングしてきれいにしました。ブリッジやペグといった金属部分の研磨クリーニングは当店の基本調整コースの作業内容にはなく追加オプションなのですが、見た目が綺麗になることでより満足感がありますし、弾く意欲も刺激されるのでこれからこのギターを弾き込むぞ!というお客様にはお勧めのオプション。弦高調整のイモネジは錆対策でステンレス製へ交換。オクターブ調整の都合で6弦サドルのスプリングは抜きました。
 ボディバックにはMid Boostを駆動するための9V電池スペースがありますが、配線変更により電池も不要に。本機はアルダーボディですが、同クラスの通常のストラトよりも電池スペースやMid Boostの基盤スペースのザクリがあるためか軽量(実測で3.28㎏)でした。
 ネックポケットにはシムが入っていましたが、今回の調整にあたってはかえって邪魔になったので外しました。
 ネック。フレットの浮き上がりが散見され、それによって音詰まりや過度なバズが生じる状況でした。根本解決するにはフレットを打ち換えてしまうか、フレット浮きを補修の上ですり合わせをするのが理想ではありますが、今回は前述の意向に沿いとりあえずはフレットを再プレスして基本調整のみを行いました。
 画像上はメンテ前、下がメンテ後の状態。
 元々の指板。放置期間が長かったのか、指板面は乾燥し手垢などの汚れがこびりついたり、浮いたフレットと指板の隙間に入りこんでしまっている箇所もありました。再プレスの際にフレット下から汚れがにゅるりと出てくる箇所が結構ありました。フレット浮きが起こる要因はいくつか考えられますが、典型的なものだと「弦を緩めすぎ」「長期間の放置」「保管場所の温度変化・湿度変化が過大」などが考えられます。加えて、適切に調整がされていないギター程こうしたトラブルには見舞われやすいとも言えます。
 フレットを再プレスした上で指板クリーニング・コンディショニング、フレットの鏡面研磨を済ませた状態。厳密にはフレットの高さは再プレスだけではしっかりそろわず、少しばらつきは残っていますし、指板上のフレットを打ち込んでいる溝が傷んでいる箇所では再プレスしただけではフレットはしっかり固定せず再度浮き上がったりはしています。しかし、それらが軽度であれば、弦高が高めであるほどそれによる影響は表れにくくもなるので、「とりあえずは高めの弦高にして使い始める」という考え方が成り立ちます。もっとも程度問題でもあり、あまり浮き沈みが激しい場合はその補修が最優先となる場合もあります。
 ヘッド。ブリッジ部と同様、ペグも錆やくすみが出ていましたが研磨クリーニングしてきれいになりました。ペグの研磨クリーニングも基本調整各コースの作業内容は含まれませんがオプション追加できます。
 クルーソンタイプのペグではブッシュが浮いてしまっていることがよくあります。本機もそのような状態だったので、しっかり入れ直ししました。

 前述の通り今回の調整ではやや高めの弦高(1弦12フレット1.7mm、6弦2.3mm)にセットアップにしました。1弦のハイポジション側で1音半チョーキングでギリギリ音詰まりがでない状態です。弦はElixer Optiweb 9-42でレギュラーチューニング。

 サウンドチェック。まずはクリーン。アンプはFender Vibro Kingでエフェクトなし。

 

クランチ。歪はWEEHBO Effkte JTM Drive。

 

先のクランチをXotic BB Preampでゲインブースト。

 

 ストラトタイプの場合、交換部品が充実していてカスタマイズの幅は広く、ピックアップなどを交換してより好みに近づけてゆく楽しみがあります。本機についても後述のメンテナンスの余地も含めまだまだ可能性が眠ったギターだと思います。勿論、現状でとても気に入ってそのまま長く弾いてゆくのも全然アリですが、弾いてゆくうちに「ああしたい、こうしたい」というのが出てきたらそれに合わせて手を加えてゆくのも楽しいかと思います。

 友人から譲り受けたりなど思いがけず入手したギターの場合、特に初心者さんだとそのギターをどう使てゆくかがまだ固まっていなかったり、メンテにどれくらい予算をかけるものか見当もつかず、いきなり大きなメンテには腰が引けるといったことはよくあると思います。そういった場合は今回の例のように徹底的なメンテナンスは見送って基本調整や問題のある電気パーツの新調のみなど、最低限だけ手を加えて弾き始めるというのも一つのやり方です。

以上、ご参考になれば幸いです。

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