「修理・調整例/リぺア・メンテナンス例」カテゴリーアーカイブ

ギターボディに描かれた手書きペイントの保護塗装例

ギターボディに描かれた美しいペイントを保護するためオーバーラッカーを実施。

 上画像のギターボディの美しいペイントは職人さんの手書きによるもの。元々このボディはポリ系の塗装がされており、ペイントはボディ表面に(接着ではなく)付着しているだけの状態でしたが、持ち主さんとしてはこのギターは記念品的なもので、演奏はせず保管されていたとのことでペイントを施してからもかなり時間経過しつつも一部がはがれたのみで良好に保たれていました。しかし、今後もこれを維持していくにあたってはやはりペイント表面をコーティングする方が有利なので、今回当店で保護塗装をさせていただきました。

 ペイント保護は勿論、好きなアーティストに書いてもらったサインなどを保護する目的でも同じ手法が可能です。もしこのような処置をお考えの場合は遠慮なくお問い合わせください。

今回はペイント部のみでなくボディ全体をラッカーでコートしています。元々のポリ系の塗装は他の塗料をそのまま重ねて塗装しても「付着」するだけで下地と保護塗装部は「接着」はせず、簡単にはがれたりする恐れがあります。なので、保護塗装前にペイント部以外の目地調整(塗装する面にやすり掛けを行い細かな凹凸をつくり、上に塗る塗装の付着力を高める処置)を行ってからクリアを吹き付けています。
 エアブラシでペイントされたギターは時々見かけますが、このような手書きのものは珍しいと思います。花びらや葉の陰影がとても美しく、画像では分かりにくいですが、描くのに使われた塗料は厚みをもって塗装されていてそれが立体感の演出に一役買っているように思います。筆で描いたことによる独特の味わいというのでしょうか、とても芸術的。左側の葉と枝、蔓に少しはがれてしまった部分がありますがこれはもともとです。保護塗装をしないままだとこうした剥がれがどんどん広がる恐れがありました。
 
 保護塗装の塗料は調整したラッカー塗料をスプレーガンで吹き付けていきますが、いきなり大量に吹き付けてしまうと折角のペイントがラッカーによって融解してしまい美しい陰影や立体感が失われたり、最悪の場合図柄そのものが崩れてしまう恐れもありますので、最初はごく薄く、瞬時に乾燥するように気を付けて少量のクリアラッカーを吹き付け、時間をおいて様子を見つつ数回にわたって吹き重ねています。今回塗装した塗膜の厚みは一般的なトップコートに比べればかなり薄いものになります。これによって、ペイント部分の質感などもしっかり浮き出てくれました。
どの角度から見ても美しい図柄です。蛍光灯の映り込みを見ると、ペイント部が少し浮き上がっていてペイントのない部分に比べ凹凸があるのがわかります。これはもともとのペイントの塗料の厚み、刷毛塗りで生じる細かな凹凸からくるものですが、この絵の味わいの重要な要素でもあると思います。
塗装後にペイント部以外はある程度の平滑性が出るように研磨を加えて全体のバフ掛けを軽く行っています。ペイント部はその味わいを生かすために研磨はせず、軽くバフ掛けを加えただけの仕上げです。この画像でも蛍光灯の反射を見るとペイント部分とそうでない部分の平滑性が異なっているのがわかると思います。保護塗装を厚くすればペイント部も含めて全体をもっときれいな鏡面に仕上げる事も可能で、エアブラシで描いたペイントやサインなどを保護する場合はそのように仕上げても良いかと思います。

今回は「記念品的なギターで演奏はせず保管しておくもの」との持ち主様の意向があり、音のことは重視せずにオーバーラッカーしていますが、演奏するギターに今回のような塗装に手を加える処置をする場合は、施工前後で音質が変化することに留意する必要があります。基本的に塗装は木材の振動・鳴りを抑える作用を持ち、逆にいうと余計な鳴りを抑え込み全体の音色のバランスを整えるという効果も持ちます。つまり塗装を見直すことである程度音色のコントロールが可能で、例えば「音が軽すぎる、暴れすぎる」といった性質のギターの塗装の上にさらに塗装を加えることで「落ち着いた、まとまった音」に近づけられたり、「鳴りがおとなしすぎる」といったギターにエイジド加工(塗装をはがしたり割ったりすような加工)を加えることで「元気な音、木材の鳴りがより強く出た音」に変化させられる可能性があります。勿論施工前に完全にどういう音に変化するかを確定できることではなく賭けでもある手段ですが、ギターの音色を変化させるために塗装に手を加えるというカスタマイズもアリかと思います。具体的な方法としては今回のようなオーバーラッカー、塗装自体をやり直すリフィニッシュ、使用感を演出したエイジド加工などがあります。これらも対応可能ですのでご興味あれば遠慮なくお問い合わせください。

フレット擦り合わせ Before After ③

フレット擦り合わせ例、第3弾。

フレット擦り合わせの例3例目、Before/After③はにと同じくレスポールタイプです。上の画像がフレット擦り合わせ前のフレット&指板の様子。減りの程度としては軽度ですが、前回の例②に比べればやや減りが進んでいる状態でした。上の画像だとローポジションにほんの少し弦の痕がついていて全体的に曇っているだけのように見えますが・・・

一番減りが顕著だった2フレット。Before画像ではっきりとした凹みがあることがわかります。こういった凹みは1~9フレットくらいにかけてついていました。After画像では凹みとフレットの全体的な曇りが解消されて綺麗になっているのがわかるかと思います。削った量ですが、Beforeの2フレットの一番へこんでいる箇所(3弦の直下)のすぐ脇のへこんでいない部分の高さが1.25mmくらい、Afterで同じ個所を測ったところ1.225mm前後。当店では凹みの底の部分はなるべく削らないように(フレット全体の切削量がなるべく少なるように)心がけて擦り合わせ、一番へこんでいた箇所の底がAfterのフレットの頂点になっています。つまり今回のフレット擦り合わせでフレットが低くなった量は0.025mm前後くらいという事になります。目測では差が全く分からない領域の数値で(一般的なノギスの測定限界がこのくらい)、そのことからも「軽度の摩耗の対処でフレット擦り合わせをしてもそれほどフレットの高さは変わらない」という事はわかるかと思います。勿論「必要以上に削らないようにする」ということが大前提。
7フレット部分のBefore/After。Before画像では2フレットに比べればわずかですが、プレーン弦側の凹みが見られます。フレットの凹みは1,2フレットのプレーン弦側に顕著に付いてしまう事がもっとも多いですが、リードギターの練習をよくやっている人はこの画像のようにミドルポジションにも凹みができていることがあります。先の画像もそうですが、Beforeはフレット擦り合わせ前にマスキングテープで指板を保護したところで撮影。Afterはフレット擦り合わせを終え、指板の専用オイルによるコンディショニングまで終えたところです。
今回フレットの両端の仕上げは元々バリなどもなくちゃんと仕上げられていましたが、フレット両端面のスラント具合がもう少し緩い方が左手の移動がよりスムーズになると考え、面取り加工をやり直しました。真ん中の画像は当店のフレット擦り合わせの中間工程で粗削りで形を整えたところです。フレット上面に赤い線が入っていますが、赤い部分についてはこの画像の時点で曲率はなくフラットな面になっています(今回の場合この画像の時点で0.5mmくらいの幅)。当店ではフレット上面を完全な曲面にしてしまうと弦を抑える力が点でフレットにかかってしまうため早く凹みが生じ、フレットの耐久性を落としてしまうと考えています。そこでフレット頂上にある程度の幅でフラットな面(厳密にはほんの少しだけ丸みがある状態)を設けるようにしています。フレット上面の切削でフレット高さをある程度揃えてから、フレットの形を整える際にフレット上面に赤で色を付け、その幅が任意になるように両サイドを削ってフレットの断面形状を大まかなに整えたところが上画像中央。この後さらにフレット上面のフラットな部分とフレット麓側の曲率のある部分の境界部分の面取り加工を行い、最終仕上げの工程を経てAfterのような形状になっています。
ネック側面。Before画像は撮り忘れてしまったのでAfterのみ。もともとの状態よりもフレット両端エッジ部を丸くして手触りをよくしました。
最後にフレット擦り合わせ後の指板全体の様子。これで新品の時より弾きやすくなると思います。

フレット擦り合わせ Before After ②

 以下の画像は先日当店でやらせていただいたレスポールタイプのフレット擦り合わせの一例です。元の状態はフレット擦り合わせの必要性としては「危急性はないが、やった方がより良い」という程度で、フレットの減りや凹みの程度としては「軽度」と言ってよいギターでした。

 このギターは90年代国内有名メーカーでの製造、現オーナーさんが新品で購入、購入時の価格は実売価で10万円を少し切るくらいだったとのこと。購入後はそれなりに弾いていたものの、ここ10年くらいは弾かれず長期間しまってあったそうです。今回、久しぶりに練習再開したことがきっかけとなりメンテナンスで当店に持ち込まれました。前述の通り元の状態のフレット摩耗度は「軽度」で、弦高を高めにする場合はすり合わせしなくてもまだしばらく大丈夫なくらいでしたが、「せっかく練習再開するのでより弾きやすい状態にしたい」ということでフレット擦り合わせを行ったという経緯です。フレット擦り合わせをすればより弾きやすくなるのは勿論ですが、凹みがある状態の方がフレットの摩耗も早いので、「できるだけフレットを長持ちさせたい」といった場合も有利(勿論すり合わせで不必要に多くフレットを削らないことが前提)です。勿論今回のご依頼主もフレット擦り合わせ後の弾きやすさの向上を強く感じておられました。

ローポジション。擦り合わせ前の画像ではフレットのほんど減りがわからない程度ですが、肉眼視ではもうちょっとはっきりとした凹みが確認できました。ただそれでも「軽度」でした。画像は撮っていないのですが、ミドルポジションも同じように若干の減り・凹みがある状態でした。Afterの画像ではフレット上にちょっと汚れが乗ってしまっている箇所がありますが(写真を撮ったあとふき取りました)、Beforeに比べて見違えるほどきれいになっているのがわかります。この程度の摩耗のフレット擦り合わせならフレットを削る量もわずかであるので、すり合わせ後のフレットの高さに対する違和感も少なく、人によっては「削ったように思えない」と感じる方もいるかもしれません。実際はわずかであっても少しは低くなってはいるのですが、弾きやすさ自体は大幅に向上するため、結果的「すり合わせ前より圧倒的に弾いやすい」となることが多いです。
 ハイポジション。この辺りはフレットの摩耗はごくわずかで凹みもほとんどなかったのですが、一部フレット浮きがあり、そこが音づまりの原因になっていたので同時に修正しています。長期間放置されていたり、弾かない時の保管方法・環境が悪いギターだとこのようなフレットの浮きが生じていることがかなりあります。フレット浮きの修正は可能ですが、修正後にフレットの高さがそろっていないことが多いのでフレット擦り合わせも同時に行う事が多いです。
 ローポジションの画像でもそうですが、BeforeよりもAfterの方が指板の色が濃くなっているのがわかります。これはBeforeの方は元々ローズウッドが有する脂分が抜けてしまって色が薄くなっているのと、Afterの方はフレット擦り合わせ後に指板のオイルケアも行って本来の状態に近づけているため。つまりオイルケアをすることで指板の色は濃くなります。勿論この画像はオイルをべたべたにしみこませているわけではなく、適正に処理しています。
元々はフレットの両端は切りっぱなしで鋭く(矢印の箇所)、左手のポジション移動時にやや引っ掛かりを感じる状態だったのでこれを削り落として引っ掛かりなくスムーズにポジション移動できるように調整しました。いわゆる「フレット両端の丸め加工」というほどではないですが、新品価格10万円くらいまでのギターの新品状態よりはよりはっきりと面取りをした状態です。このくらいまでの加工であれば当店の場合は通常のフレット擦り合わせの作業内と考えていて、料金追加はありません。勿論もっと明確に丸く形を整えたい場合は追加料金で承っています。ただ、その場合は「丸め加工をすれば1弦と6弦の弦落ちは起こりやすくなるかもしれない」という事に留意して判断する必要があります。また細かいことですが、今回はバインディングにもササクレがあり手触りが悪い部分があったのと経年変化のためか指板面と段差ができている箇所もあったのでごくわずかに削って形を整えさせていただきました。Afterの方がバンディングの指板面が白く見えるのはこのためです。

今回は「フレット摩耗度軽度」でのフレット擦り合わせの例でした。ご自身のギターでフレットの減りはそうでもない気がするけど、音のばらつきやビビりが気になる方や「フレットにほんの少しだけ凹みができていて弾きにくいわけではないけどちょっと気になる」といった方は今回のケースに近いと思いますので積極的に擦り合わせを検討しても良いと思います。逆に、本例くらいの摩耗で弾いていて全く気にならない場合や、「フレット擦り合わせせず、限界まで使ったらフレット交換する」といった考え方、予算の都合ですぐにフレット擦り合わせはできない方は弦高などのセッティングを見直すのみでそのままの状態で弾き続けても良いかと思います。もっとも、こういった判断はフレットの全体的な摩耗量だけでなく、その偏り(一般的によく弾くポジションの減りの方が早い)、ネックの反り具合、ナットの摩耗量、そのネックの振動の傾向などなどいろいろな要素によっても変ってくるので、フレットの減り具合だけで判断できないことも留意する必要があります。「自分では判断できない」という方も多いかと思いますので、そういった方は遠慮なく当店にご相談ください。

以上、メンテナンスするかどうか悩まれてる方のご参考にしていただければ幸いです。

低価格エレキベースのフレットメンテナンス例

こちらのSQUIRE Precision Bassのフレット周りのメンテナンスを行いました。

こちらのプレシジョンベースはFenderのジュニアブランドSquireのもので新品の実売価は3~4万円くらいの価格帯です。このくらいの価格帯になるとメーカーも製造コストがかなり厳しく制限を受けるためか基本的な調整が半端な状態で売られていることが多いと思います。本機の場合、2004年製で製造からの経年変化も加わっているとは思いますが、新品でも本機の元の状態と同様なネック回り・フレット周りであることは珍しくなく、それが原因で初心者さんの練習モチベーションが左右されてしまったりもあると思います。低価格品であってもメンテナンスを加えることで弾き心地は激変し、初心者さんの最初の一本として長く付き合って行ける楽器になり得ます。以下、今回行ったフレット周りのメンテナンスのBefore/Afterを紹介します。

Before:フレット表面は曇り、指板は脂分が抜けて色が薄くなっています。減りはそれほど多くはなく、目立つ凹みもありませんが・・・
Before:横から見たところ。遠目にはわかりにくいですが、実はフレットの端の鋭くなっている部分がちょっこっとはみ出ている部分が多数あり、左手のポジションチェンジで引っ掛かりが多発する状態。そのままでは下手をすると怪我をすることも。そして、画像下段左のフレットは少し浮いています。こうしたフレット浮も何か所かありました。
本機に打たれているフレットはこの画像のフレットのように指板端の足をカットして打ち込まれています(赤矢印の箇所)。つまり前の画像でフレットが浮いてる部分の下は完全に「隙間」ができてしまっている状態。こうなるとかなり切っ先が鋭く演奏にも支障が出やすいです。

今回のベースの場合、まずフレット浮きの修正を行いました。具体的にはまず浮いたフレットを改めて指板に叩き込む作業を実施。叩いて修正した後しばらくすると再び浮き上がってしまうこともあるので、しばらく時間をおいてから再度チェック、若干ですが再び浮き上がっている箇所があり、そういったところは接着剤を注入して再固定を図っています。「フレットを接着する」というのではなく「フレットが打ち込まれている溝の隙間を埋める」という目的です。フレットに接着剤を使うというのはなじみがない方も多いと思いますが、実はメーカーで制作されている高価格帯のギターでもフレットを打ちこむ際に接着剤を併用している例はたくさんあります。そうしてフレットをしっかり固定した状態でフレットの高さに若干ばらつきがあったので擦り合わせ(フレットを削って高さを揃える作業)を実施。といっても高さの差はわずかでもともと目立つ凹みもなかったフレットなので擦り合わせで削った量はわずかです(0.05mm未満)。そしてフレット両端の鋭い部分を削り落とし(丸め加工)を加え左手移動時の引っ掛かりを解消、最後に脂分が抜けた指板のオイルケアをして完了。ローズウッドやエボニーは脂分が多い材なので、オイルケアも結構大事です。

以下Afterの状態をご覧ください。

After:メンテナンスが完了した指板&フレット。フレットはピカピカにした方が音もしっかり発音させやすく、伸びも得やすくなります。当然演奏性も向上します。指板の色合いがBeforeよりもかなり濃くなっていますが、それだけ元の状態では脂分が抜けてカサカサになっていたという事です。
After:フレット端。Beforeの状態に比べてかなり丸くなっているのがわかります。これにより引っ掛かかりは解消、弾き心地がかなり向上しています。

今回のメンテナンス例は「新品売価3~4万くらいの低価格機で足りない部分を補って質を大きく向上させる」という例です。メンテナンスの内容としては高級な楽器でも行うもので、買ったばかりの楽器でも「なんか弾きにくい」「なんか音がヘン」といった場合に今回同様の基本的なメンテナンスで化けてくれることはよくあります。お手持ちの楽器でお心当たりがあれば是非ご相談ください。

フレット交換に伴う指板修正の例/指板修正でネック反り補正

フレット交換・指板修正のためフレットを抜いた状態のジャズベースタイプネック2本。上は2014年製Fender Japan JB62のネック、下は1977年製のGreco JB450Sのネック。

フレットを交換する際には「指板表面を薄く削って平滑な面に整える作業」が伴いますが、当店ではこれを「指板修正」と呼んでいます。この作業の主な目的は以下の①ですが、ネックの状態によって②も加わります。また場合によって②のためにあえて摩耗していないフレットを交換するという選択肢もあります。

①指板表面の凹凸を解消して平滑な面に修正、弾きやすさを向上させる。また新しいフレットを打った際のばらつきを極力減らし、フレット擦り合わせでフレットを削る量・フレットごとの削る量の差をできるだけ少なくする。

②ネックの順反りの補正、ハイ起きの補正。

①だけが目的の場合は指板のローポジションからハイポジションまで一様にごく薄く切削、研磨しますが、②も伴う場合はネックのローポジション側またはハイポジション側、あるいはその両方をミドルポジションよりも多めに削ることになります。つまり、指板を削ることで曲がってしまったネックの直線性を作り直します。当然ながらいくらでも削ってよいわけではなく、状況に応じて少し削るといった感じです。今回の例の2本のジャズベースのネックはいずれも②も目的に加えて指板修正を行いました。 続きを読む フレット交換に伴う指板修正の例/指板修正でネック反り補正