フレット擦り合わせBefore/Afterの5例目はFender Japanの54年タイプストラト。メイプル指板にヴィンテージスタイルの細いフレットが打たれたギターです。当店に持ち込まれた際の持ち主様の訴えは「いくらチューニングをしても音程が合わない」「やたらと音づまりやビリツキが出るので弦高をどんどん高くしていったが、調整しきれない」というものでした。点検したところ、以下の症状を確認。
①極端なネックの順反り。トラスロッドの余裕が十分ではなくトラスロッドだけでは適切な状態にできない。
②交換されたナットの弦溝が浅すぎて1弦の弦高が極端に高く、6弦1フレットを押さえると1音近く音程がシャープしてしまう
③フレット摩耗はローポジションのプレーン弦側は顕著
④ハイポジションはかなりの弦高(1弦12フレット2.2mmくらい)にしても1弦ハイポジションの1音チョーキング時に音が完全に詰まってしまう。極端な反りで「ハイ起き」と同様の状態。
フレットの摩耗量もまあまあありましたが、それ以外の部分がかなり問題でした。元々オークションで入手したとのことで以前のオーナーさんも自分で調整・修理しようとして断念して売りに出したのかもしれません。
今回フレットの摩耗は2フレットが最もありました。減りの程度としては中程度~重度でしたが、演奏性も含めて考えるとぎりぎりフレット擦り合わせ適応と判断しました。次はフレット擦り合わせではなく、フレット交換をした方が良いと思いますが、それまで十分弾きこめる状態を確保できています。また、ネックの順反り調整の補完のために若干程度の減りだった15フレット以上のハイポジションも敢えて多めに擦り合わせしています。これによって最終的に1弦12フレットの弦高を1.6mmくらいまで下げても1音チョーキングくらいは問題なく、1音半チョーキングではビリツキが出るものの、詰まりはしない程度までになりました。
今回の擦り合わせでは「フレットはかなり低くなった」という印象で、私の方でも「次はフレット打ち替えを行った方が良い」と判断した案件です。参考までに実際にはどれくらいの摩耗度になっているのかを考えてみたいと思います。
まず、この手のヴィンテージスタイルのストラトタイプで用いられている細いフレットは未使用(指板に打ち込まれる前の状態)だと高さは1.0~1.2くらいのものが多いと思います。メイプル指板の場合はフレットを打ちこんだ後に塗装を行い、その上で擦り合わせをするので、「塗膜の厚み」と「製造時の擦り合わせでの摩耗」があり、それを含めて考えると新品ギターだった頃のフレットの実行高(塗膜表面からのフレット高さ)は大雑把に0.8~1.0mmくらいといったところでしょうか。本機の場合、擦り合わせ前のフレットは高い箇所で0.95mmくらいありましたが、その箇所については摩耗量はほとんどなかったと考えてよいと思います。一方、最も顕著に凹みがあった2フレットでは、擦り合わせ後のフレットの高さから逆算でフレットの凹みの深さは0.1~0.15mmくらいで、擦り合わせ後のフレット摩耗量としては大雑把に1割~1割5分程度くらいと考えられます。数値的には「そんなに摩耗してないじゃん」と思われる方もおられると思いますが、前述の通りメイプル指板の場合は塗膜の厚みの分元々フレットの実行高が低くなってしまうので、仮に塗膜の厚みが0.1mm程度だとしてもローズ指板など無塗装の指板の2割~2割5分減に相当する状態になります。フレットの減りは1割程度でもギタリストには「かなり減っている」ことがわかり、演奏性の差も顕著に感じますので、今回のギターのフレット擦り合わせ後の状態は「かなり摩耗が進んだ状態」と考えてよいと思います。