ボロボロの楽器のレストア例:1997~2000年製Fender Japan JB62

かなり使い込まれてボロボロのベースを復活させます!

上画像のジャズベースは1997~2000年頃製造のFender Japan JB62です。とある練習スタジオのレンタル機として新品で導入されて使い続けられ、フレット交換などもされて生きながらえていたものの、状態が悪くなりレンタル機としては引退、しばらく倉庫に保管された後、現在のオーナーさんの手元にやってきました。当店に持ち込まれた時点でフレットは浮きまくり、指板はカサカサでRは崩れ、若干のねじれがあり、ボリュームやトーンは過度のガリと接触不良、ペグやブリッジサドルといったメッキパーツの表面にはたばこの脂が固着したと思われる茶色い汚れにまみれていました。当然演奏に耐えるような状態ではなかったのですが、現在のオーナー様は本機を何とか復活させ手使っていきたいという意向で当店に持ち込まれたものです。比較的大がかりなメンテナンスとなると同クラスの中古品を購入するよりも大きな費用がかかってきますが、思い入れのある楽器を何とかしたい、古い楽器を使い続けることに価値を覚える方であればか行けるよりも高い満足度が得られることは多いと思いますが、今回はまさにそういったケースでしっかりメンテナンスを施すことでまだまだ現役で活躍できる状態に復帰させることができました。全体的に塗装欠けや傷などが多いのですが、それがかえって使い込まれてきた履歴を物語っていて下手なエイジド加工品よりも貫禄のある仕上がりになったかと思います。

以下詳細をレポート。

1.状態確認

まずは分解して各部チェック。

ボディは全体的に傷があり、ネジ類は木部内まで錆が浸潤。
 ブリッジ。サドルは表面の腐食と弦による摩耗(凹み)が生じています。ねじ類は現在では珍しいM3.5規格品が使われていますが、1弦のオクターブビスだけM3になっていました。1弦サドルのねじ穴はちゃんとM3.5だったので紛失したなどでM3のビスで代替したと思われます。当然、サイズが合っておりませんので不都合です。ブリッジプレートを止めているビスは木部側まで錆が浸潤していました。
 ボリュームやトーンはガリや接触不良と思われる音途切れで使用に耐えない状態。開けてみるとオリジナルと思われる日本製のPOTにSwitchcraftのジャック。ジャックはおそらく交換されたものと思われます。コントロール部ザクリの底面やピックアップザクリの底面にはブラスのシールドプレートがねじ止めされていました。リアPUザクリのシールドプレートはブリッジ底面への弦アースのラインと一体型だったのですがブリッジへは通電していませんでした。おそらくは腐食によって通電しなくなったと思われます。
 経年劣化・摩耗、汚れ等によって指板表面は汚く、乾燥して荒れている箇所も散見されました。様相からフレットは打ち換えられたものであることがわかりました。(フレットが2本抜いてありますが、これは元からではなく、新しく打つフレットを決めるために元々のフレットのサイズ(足の厚みを含む)と指板のフレット溝の幅を確認するために ご依頼主様と今回のメンテナンスを相談している最中に抜いたものです。
 指板側面から見るとフレットが浮きあがっている箇所がよくわかります。また指板側面の塗装もぐずぐずに崩れ荒れています。指板がえぐれたり欠けたりしている箇所も散見されます。以前フレット交換した際に生じたと思われる指板の欠けも見られます。
 ヘッド。ペグの表面には茶色い汚れがこびりついていました。おそらくはたばこのヤニが固着したものかと思われます。練習スタジオのレンタル機だったそうなので、その時代に本機が保管されていたスペースがスタジオに来たお客さんがたばこを吸って歓談するようなスペースだったのかもしれません。
 ネック裏には大きな陥没がありました。ぶつけた際に塗装割れを伴う打痕が生じ、その部位が抜け落ちて木部が露出したものと思われます。バリも出ていて演奏時の手触りは良くなかったでしょう。
 ペグはどの弦かわかるように袋に入れて保管。画像には写っていませんが、各ペグを止めていたビスも木部側に錆が生じていました。
 画像左上はナットを外したところ。ナットは裏側に紙が貼られていました。おそらくは摩耗が限界を超えたために簡易的に調整したのか、あるいは前回のフレット交換の際にナットは交換しなかったため高さが合わなくなったため無理やり合わせたのか等が考えられます。 他画像はフレットを抜いた直後の指板。フレットの下にかなり汚れがたまっていたことがわかります。画像だとわかりにくいですが、フレットを打ち込む溝の周辺が過剰に欠けている個所も散見されます。

2.指板修正・フレット交換

 指板修正の前にまずは指板をクリーニングしました。汚れがなくなると指板の荒れや欠けがよくわかります。本機はカタログ上では指板R7.25inchですが、この時点で部分的に6inchくらになっている箇所もあり面が大分狂っていました。
 指板修正を終えたところ。よく見るとフレットを打ち込む溝周辺に周囲のローズウッドよりも色が黒い箇所がありますが、そこが欠けを補修した箇所。まだ細かな欠けが残ってはいますが、それらはフレット打ちこむ際に同時に修正した方が効率的できれいにできるのでここでは大雑把な補修にとどめています。指板表面にはえぐれもまだ少し残っていますが、指板を削る量を抑えるために演奏に支障がなければ良しとしています。この時点で指板のRは元の7.25inchにまで修正できましたが、指板側面のわずかな範囲には7.25inchよりも急激なR(というより摩耗によってできたテーパーやえぐれ)も残っています。これもフレットを打つ際に問題ないように処置できるのと、やはり指板を削りすぎないことも重要なのであえてここまでの切削としました。
 指板修正後の指板側面。塗膜が割れたり欠けたりしていて荒れた状態です。ここはフレットを打ってから修正をかけてゆきます。
 今回新しいフレットは日本製のジャンボフレット(三晃SBB215 高硬度品)をチョイス。フレットを打つ際に接着剤をうまく使用することで前の工程までで補修していなかった細かなフレット溝の欠けをフレットを打ち込むと同時に補修しています。接着剤といってもフレットと指板材を「接着」するのではなく(そもそも金属と木材なので癒着はしない)、樹脂(=接着材)でフレット溝の欠けた個所やサイズが大きい箇所などを埋めてよりタイトに固定するのと、フレット両端部でRがわずかに合わない箇所や欠けによって隙間が生じてしまう箇所に樹脂の下駄を設けることで前述の修正しきれない指板側面に対応。ちなみにここで用いる接着剤は化学反応で一気に硬化させるタイプのもので、溶剤の揮発による痩せは生じず、なおかつ木材の補修の樹脂として十分な硬度があるものを使用しています。
 フレット打ち込み後、指板の側面はフレットのバリや手触りがわるい割れ・欠けた塗膜を削り落とし、エッジ部は面取り加工を行いました。これにより指板側面は一部を残してローズウッドが露出した状態になりますが、この方が手触りも良く演奏性は高まると考えています。面取り加工をしっかり行うことでネックを握り込んでも指板エッジが当たる感触も少なくなっています。また、ナット付近などは塗膜が残っていますが、ローズウッド露出部と触り心地と見た目が変わらないようにサテン仕上げにしています。勿論、削りすぎてしまわないように細心の注意を払っての処置しています。

3.レストア完了

 レストア完了!演奏性の回復は勿論ですが、元々の使用感が貫録のある見た目につながっていていい感じです。
 ボディは塗膜を研磨クリーニングしてヤニ汚れなどを落としました。木部側まで錆びていて再利用できなかったビスはすべてステンレス製に交換。ねじ穴の傷みでねじが緩くなっていたピックアップとブリッジプレートにのビスついてはビス穴を簡易的に補修の上でやや径が大きいビスへ変更することでしっかりしたトルクを稼いでいます。また画像は取っていないのですがやはり傷んでいたブリッジ側のストラップピンのビス穴も補修してあります。クリー二ングで清潔な状態にはなりましたが、元々の塗装剥がれ等により使い古された感じも健在。
 ボディに見られる削等。人工的なエイジド加工ではない本物の使用感が貫録を感じさせます。
 ブリッジは一か所だけ規格違いパーツになっていたネジを本来の規格の中古部品に置き換えた上、パーツ表面の腐食汚れ等を研磨クリーニング。サドルには弦の痕が強く残っていましたが、幸いこのタイプのサドルは裏表ひっくり返しても同じ仕様なので、弦の痕がない面を上にしてセット。
 配線をやり直すにあたって、機能しなくなっていたブラスのシールドプレートは撤去、改めてノイズ対策のシールド塗装を施すことで格段に低ノイズになっています。これに伴い弦アースはブラスプレートではなく、ブリッジ下にアースのケーブルを配置する方法に変更。ピックアップ以外の電気部品は一新、POTはCTS Custom POTのmm規格品、コンデンサーはOrange Drop 716P 0.047μF、ジャックはSwitchcraft mono Jack #11、配線材は古河電工BX-Sで再配線しています。
指板。ナットはラクダ骨から削り出し制作。
ネック側面。
ネック裏にあった陥没箇所は樹脂で埋めて面出し成形。
 ペグに付着していた汚れは研磨クリー二ングによって除去。元々のビスは錆びていたのでステンレス製の同規格のビスで再取り付けしました。

最後にサウンドチェック。

まずは指弾き。アンプはPhill Jones Bass CubⅡ、シールドケーブルはBold Cable FATでエフェクトなし。

ピック弾き。

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