フレット擦り合わせ等の調整とサーキットのノーマライズを行ったFender Japan ストラト。
こちらは当店で調整をやらせていただいた1992~93年製造のFender Japan STR-90LS Stratocasterです。ローズウッド指板のもの(STR-85LS)は時々中古市場でも見かけますが、本機はショップオーダーのメイプル指板仕様、カタログ外モデルのためかなりレアではないかと思います。22フレット仕様、やや緩い指板R、Eric Claptonの使用で当時人気だったLace Sensor PU、USA Fenderの看板モデルだったAmerican Standard Stratocasterと共通の2点支持トレモロ、ミッドブーストサーキット搭載という当時としては最先端なストラトでした。しかし、約30年経過するうちにミッドブーストが機能しなくなったりフレットの浮きが生じたりなどの問題も起こっていました。今回行った主なメンテナンスは以下の通り。
①浮いたフレットの補修とフレット擦り合わせ
②ミッドブースト撤去、スタンダードなストラト配線へ変更
③シールド処理 再施工
④トレモロのフローティングセッティング含む基本調整
フレット擦り合わせ施行後の指板。今回の場合、「フレット浮き」が主要因でフレットの高さのばらつきが生じていました。あまり激しく弾きこんだギターではなかったそうでフレットの摩耗はわずかだったため、フレット浮き補修の後で擦り合わせした量は極わずかで済んでおり、弾き心地は「しっかり調整された新品と同等以上」にできたと思います。フレット浮きの処置は単純に再度押し込んで(打ち込んで)済むものはそうしますが、押し込んでもそれ以上溝に入らない、入ってもまた浮いてくる場合、当店では「樹脂で浮いた箇所を満たして沈まないようにする」または重度の場合は「いったんフレットを抜いてRをつけ直して再度打ち込む」という処置を行い、その後フレット擦り合わせで全体の高さを均一に整えます。 フレット浮きが生じる要因は木材の収縮・膨張・反りなどによりフレットが収まっている溝が広がってしまって浮くというのが多いと思いますが、実は新品時から浮いているギターも珍しくありません。フレット浮きをそのままにしてフレット擦り合わせを行うのは基本的にNGなので特に注意が必要なところです。
取り外した日本製のミッドブーストサーキットと周辺パーツ。ボリュームはミッドブーストサーキットに合わせた50kΩになっています。Lace Sensor PUはそのまま残してスタンダードなストラトの配線に変更(次画像)。
一新したサーキットではポットはCTS Custom POT A250kΩのミリ規格タイプ、セレクターはOAK 5way、キャパシターはOrange Drop 716P 0.047μF。ケーブルはFenderと同じClothwireでやり直しました。画像には写っていませんがジャックはSwitchcraft #11 Mono Jackに交換。弦アースやジャックも配線しなおしています。
元々のボディのシールドの状態。塗布された導電塗料はさっと1回塗っただけのようで導通が不十分な上(ザクリの端から端までの抵抗値が本来ほぼ0であるべきところ約1kΩあることを確認) 、塗り残し(下画像)もあちこちに見られました。
ザクリ側壁上部に導電塗料塗り残し多数。こうした「シールドの隙間」があるとノイズの要因となる電磁波が容易に入り込んでしまい、「シールド処理したのにノイズが思ったほど減っていない」という事態が起こりがちです。実はこうした状態のギターは非常に多く、持ち主さんが自分で塗布した例だけでなくメーカーの処置も同様だったりすることが珍しくありません。「バックパネルやピックガード裏にアルミシートが張ってある、木部ザクリに導電塗料が塗られているがアースにつないでない」というのもよく見かけます。そうなってしまっている事情は分かりませんがいずれにせよそうしたケースでは「シールド処理をしっかりやり直すことでノイズを減らせる余地がある」と言えます。
実機のシールド再処置後の写真を取り合忘れてしまったので(ゴメンナサイ)以前扱ったJazzmasterの画像で説明。ピックガード側はアルミシートでシールドしてあります。ボディザクリは導電塗料を2,3回塗り重ねてしっかり導通のあるシールドを確保。勿論、ザクリ内壁上部まで隙間なく塗布しています。この状態でザクリの端から端までの抵抗値はほぼ0Ω。さらにピックガードで蓋をした際にボディ側とピックガード側のシールドが電気的に通じるようにピックガードのネジを止める箇所2~3か所にシールドを延長(この画像ではアルミテープを利用)。今回のSTRにもこの画像と同様のシールド処置を施し、ノイズはできる限り少なくできました。元々ノイズが少ないLace SensorPUではありますが、エレキギターは電気回路全体が「ノイズ受信アンテナ」のような側面もあり、今回のようにPU以外の部分もしっかりしたシールド処理することはノイズ軽減に有効です。
本機のトレモロはボディにザクリのあるタイプ。基本的にはトレモロはフローティング状態がデフォルトで画像のようにボディ面とブリッジプレートが平行になるようにセットアップ。今回の場合、画像のようなセッティングでアームアップの余裕は3弦開放で1音ぐらいで一般的には十分な量確保できています。弦高の調整はトレモロユニットの高さと各弦のサドルの高さで調整できますが、サドルをブリッジプレートにベタ付けにするとサドル高さを調整するイモネジが演奏の振動で暴れてビビり音を生じやすくなったりするので、画像のように「腕立て伏せ状態」に少し突っ張らせるような形にセットしています。
メンテナンス前はストラトとしてはややこもったような音質で、ミッドブーストは操作してもほんのわずかに音色が変わるだけといった状況でした。勿論Lace SensorPUの特性はノーマルなシングルコイルPUとは同じではありませんが、やはり不自然な状態だったと思います。メンテナンス後にサウンドチェックすると聴きなれた感じのストラトサウンドになりました。
サウンドチェック。アンプはFender Vibro King。
クリーン。エフェクトなし。
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クランチ。歪はWEEHBO Effekte JTM Drive。
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先のクランチをXotic BB Preampでゲインブースト。
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