フレット交換例②1979年製 YAMAHA SA-2000

フレット交換をさせていただいた1979年製のYAMAHAセミアコSA-2000

79年製のYAMAHAセミアコのフレット交換を行わせていただきました。フレット交換の例としてご紹介します。

フレット交換前の主な症状と作業後の改善状況は以下の通り。

①元のフレットの高さは低いところで0.7mmくらいまで摩耗

 ⇒新しいフレットは国産のナロージャンボ。高さ約1.3mm。

②バインディングが収縮し剥がれも散見。指板との段差があったためほぼすべてのフレットの両端とバインディング間に隙間。

 ⇒段差と隙間解消。バインディングの剥がれ解消。

③ネックは順反り大、トラスロッドで調整しきれなかった。

 ⇒ノーマル弦・チューニングで適切な具合に。

 ⇒トラスロッドは閉まり気味だが、少し調整の余裕も確保。

以下作業途中の状態を順にご紹介。

 元々の指板・フレット。打たれていたフレットは比較的幅のあるミディアムサイズ。おそらく複数回フレット擦り合わせしたようでかなり平たく高さは0.7mmくらいまで摩耗。またバインディングが強く収縮していて剥がれている箇所が散見、剥がれが起きていない箇所も指板との間に段差が出現(画像ではちょっとわかりにくいですが、右下剛を拡大するとわかります)、フレット両端がほぼすべて浮いている状態。さらにバインディング上面が指板Rよりも強い角度で削り落とされていてフレット両端がバインディングに乗っている量がかなり少なめ。こういった状態のバインディングは古いギターでよく見られるのですが、最初からの仕様なのか、フレット擦り合わせやフレット交換を重ねることで結果的にそうなったかは不明ですが、フレット交換する際にはどうしても指板の側面をほんの少し削ることにもなるので後者の可能性が高いかな?今回はバインディングに乗るフレットの量を少なくとも維持、できえば少し増やす方向で対処(後述)。
 画像では22フレットが抜けていますが、これは持ち主様と新しく打つフレットを決める際に元々のフレットの詳細を確認するためにその場で一本だけ抜いたためです。
 すべてのフレットを抜いたところとバインディングの剥がれ。ナット側は結構激しく剥がれていてこの通りべろんべろん。この後、剥がれたバインディングの接着を行ってからフレットを抜いた際に荒れた指板溝の補修、そして指板修正と行っていきます。
 画像上は抜いたフレット。下は新しく打つフレットの加工見本(実際に打ったフレット同型見本)。新しいフレットは指板よりも若干きつめのRをつけてからバインディング部分の足(矢印の箇所)を切り落とています。つまりバインディング部分のフレットはバインディングに打ち込まれているのではなく乗っかているだけ。必然的に指板とバインディングとの間に隙間が生じやすいと言えますが、ちゃんと管理すれば、比較的フレットバリは出にくく演奏時の触りごこちも良好な仕様で多くのメーカーがこの方法でフレットを打っています。余談ですが、バインディングのないギターでも同じ様にフレットを加工して打ち、後から指板側面から溝の隙間を埋めることで同様の弾き心地が得られます。
 フレット溝の補修と指板修正を終えたところ。画像をよく見るとフレット溝周辺に補修痕があるのが分かります。痕は新しいフレットでほぼ隠れますので目立つことはありません。
 今回はトラスロッドの順反り矯正幅を稼ぐ目的でローポジション側とハイポジション側はやや多めに削りました。
 フレット交換と合わせてトラスロッドの余裕を稼ぐ場合は指板修正だけでなくフレットの高さの調整も合わせて行う場合もありますが、今回は指板の修正のみで対処。話がそれますが、元の状態によってはあえて6弦側をやや順ぞりを残すといった修正を行う場合もあります。1弦側と6弦側でネックの反り具合が異なるといったことはよくあることで、そういったことを考えると常にド平面にすればベストではなく、目指す状態やギターが持つ癖も踏まえて修正を加えればより弾き心地を向上を狙えます。
 指板の修正を行う事でバインディングと指板の段差も解消。画像右は仕上げ直前の状態で指板表面に蛍光灯を写してさらに修正を加えるべき歪みや段差が残っていないかを確認しているところ。
 新しいフレットを打って、指板からはみ出た部分を大さっぱに切断したところ(画像左)。
 この状態で前述の通りフレット両端はバインディンに乗っているだけで、元々のバインディグ上面のテーパーが強めのこともありフレット端にどうしても隙間があります。右上画像はその隙間をバインディングと同色に調合した樹脂パテで埋めたところ。この後フレット両端の切断面のはみだし部分を角度をつけて削り落とし、エッジを丸めていきます(余計な樹脂パテも削り落とされる)。この過程を経ることで、フレットの両端がバインディングに乗った状態を維持、あるいは拡大しつつ仕上げられます。ただし、バイディング上面のテーパーが極端で隙間が大きいとこの方法では無理が出てきますし、ギタリストによってはフレットがバインディングに乗ってなくても良いと考える方もおられるので、あくまでケースバイケースで用いる方法です。
 右下画像は各フレットの両端角度付けとエッジの面取り、フレットの擦り合わせの荒加工まで終えたところ。フレット打ち替え時のフレット擦り合わせではたくさん削る必要はないので「荒加工」といっても使用するやすりは仕上げ目に近いものです。そうすることでせっかくの新品フレットの高さをなるべく維持した状態で仕上げます。
 フレット擦り合わせも含めた仕上げ作業をほぼ終えたところ。この後は指板のコンディショニング(専用オイルやワックスでの処理)を行ってネックの作業は完了、後は弦を張って基本調整して終了。古いフレットが打たれていた画像と比べるとフレットの両端が元の状態より少し多めにバインディングに乗っているのがわかります。この状態でフレットとバインディングの間に隙間はなく、不必要なバリも出ていませんので弾き心地も良好です。
 フレット打ち替えだけではどうしてもフレットの高さに若干のばらつきは残るのでフレット擦り合わせも行い精度を上げていますが、ちゃんと指板修正と溝の補修をしてからフレット打てば添え程のばらつきは出ません。摩耗したフレットでのフレット擦り合わせに比べればフレット交換時の擦り合わせ切削量はごくわずかで済みます。なので今フレットの高さは切削前とほとんど変わっていません。
 フレット交換と合わせてナット交換も行っています。今回は牛骨無垢材で弦間ピッチはオリジナルのナットとほぼ同じ7.1mmで作りました。バインディングの収縮と剥がれのためナットとバインディングの間にも隙間ができていたので前述の樹脂パテで埋めました(矢印の箇所)。
 ネックのメンテは完了しましたが、まだ解消しなければならない問題が。経年劣化でブリッジが3,4弦辺りが沈み込むように変形しているため、指板のRに対してブリッジのRが極端に緩く2~6弦の弦高が低くなりすぎる状態でした。これはGibsonのABR-1などでも時々見られる現象でそのままでは弦高のバランスが取れなくなります。できればブリッジ自体を交換したいところですが今回は1~3弦と6弦のサドルの溝に加工を加えることで帳尻を合わせました。本来、サドルの弦溝は弦が乗っかる程度の凹みで十分なもので、あまり深くしすぎたりすると音色にも顕著な影響が出ることがあります(溝の形である程度修正可能ではあります)。なので応急処置的な方法ですがとりあえずは今回これでバランスが取れました。
このギター、ネック折れ補修の履歴もありました。ぱっくり割れた部分を接着しただけの修理で見た目はドキリとさせられるかもしれませんが、強度的には全く問題ありません。満身創痍ですが、必要な修理を加えながら長く弾き続けられていることは持ち主さんにとってもギターにとっても喜ばしく誇らしいことかと思います。

以上、フレット交換の一例でした。このギターは電気パーツなどほぼオリジナルのままで、実はスイッチやボリュームにガリなど不安もあったのですが、とりあえずは振動部をしっかりオーバーホールしてしばらく弾いてから必要に応じて電気部分もメンテすればよいかと思います。

今回のSA-2000、ボディトップとバックの材がギターでは珍しいカバとブナという珍し組み合わせ。ボディ表面の木目が出ている方がカバかと思います。一般的にはセミアコのボディトップ・バックには比較的堅い木材のメイプルとそれよりもやわらかい材(マホガニー系やスプルース、ポプラなど)のコンビの合板が用いられることが多いですが、YAMAHAはそれを国産材でやろうとしたのでしょうか。調べてみるとブナは結構固めの材でカバは比較的柔らい材だそうです。センターブロックもメイプルとスプルースのコンビで独自性があって面白いです。

サウンドチェック。クリーン。アンプはFender Vibro Kingでアンプ直。PUは比較的弦に近づけたセッティング、弦はDaddario EXL110(10-46)でレギュラーチューニング、弦高は1弦12フレット1.3mm、6弦は2.0mmくらいに調整してあります。

歪サウンド。歪はWEEHBO Effekte JTM DriveをメインにXotic BB Preampでゲインブースト。

先のセッティングでゲインブーストをOffした歪サウンド。

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