かなり摩耗していたフレットを頑張って擦り合わせした1968年製 Gibson ES-335

当店でフレット擦り合わせをさせていただいたES-335,1968年製。

当店でフレット擦り合わせ等させていただいた1968年製のGibson ES-335です。かなりフレットが摩耗し、数か所についてはフレットが指板から浮き上がってきていました。またポジションマークに経年劣化で収縮、剥がれが生じ弦にあたって音詰まりやビリツキの原因になったりフィンガリングの邪魔に。さらにペグのブッシュが浮き上がっていてチューニングの妨げや余計なビリツキを誘ってました。ナットは元々交換されていたものですが、摩耗が限界。電気パーツについてはちょっとガリが気になったほか、リアPUのカバーがポールピースのピッチに若干あっておらずカバーが浮き、弦とPUとの距離がアンバランスになっていました。

ヴィンテージギターの場合、「多少弾きにくさが残ってもなるべくパーツ交換などはしない」というご希望は多く、今回もどちらかと言えばそうした案件。単純に演奏性だけ考えればフレットとナット、ボリュームとトーンは交換したっ方が良かったもののやはりそれでは音の変化も大きくなるもの。そこである程度の演奏性の回復を目指しフレット浮き補修とフレット擦り合わせ、ポジションマークの補修、リアPUカバーの微修正とつけ直しのみをさせていただきました。

結果的にフレットは一番低いところで高さ0.7mmとかなり低くなりましたがまずまずの演奏性は確保できています。弦高はとりあえず1弦12フレット1.5mmにセット。フレットだけ見ればもっと低い弦高も行ける状態に復帰していますが、今回手を付けなかったナットの状態も合わせると弦高を下げるのはこの辺りで折り合うのがよさそうです。

サウンドチェック。まずはクリーン。アンプは Fender Vibro Kingでアンプ直。

 

もう一本クリーン。WEEHBO Effekte JTM Driveを薄くかけています。

 

クランチ。歪はWEEHBO Effekte JTM Drive。

 

先のクランチをXotic BB Preampでゲインブースト。

摩耗して凸凹だったフレットは擦り合わせして高さを揃えました。画像では背の高いジャンボフレットのように見えますが、擦り合わせ後の実際のフレット高は一番低い箇所で0.7mmほど。フレット擦り合わせでは高さを揃えるだけでなくフレットの形を整える作業も行いますがその作業は低いフレットであるほど難しくなります。今回も通常のフレット擦り合わせの倍以上の時間をかけて対処しました。勿論、元々一番低かったところがさらに低くなることがないように切削は最低限で済ましています。ポジションマークは収縮や変形も当然ながらあるので完全に指板面と揃えることはできませんが、指板のローズウッドとの段差、隙間は解消、剥がれて押弦の邪魔になっていた箇所も問題なくなりました。9フレットのポジションマークのみ他と色合いが異なりますが、ここだけ以前剥がれた際に先に交換していたとのことでした。
横から見るとフレットが低くなっていることがわかります。ここまで低いと剥がれたポジションマークが弦にガンガン当たるのも頷けます。
以前交換したというナット。今回は当店ではノータッチですが、元々追い込んだ調整をしていたのか特に1弦の溝の摩耗がほぼ限界。しかし、あまり弦高を下げずに弾き方も注意すればもうちょっと引き延ばしてもよいかもといったところです。
今回ノータッチですが、ボリュームやトーンの操作時にガリが出ます。50年以上前のパーツなので劣化も含めたその特性がパーツ交換で失われることを考えれば「ちょっとのガリくらい受け入れる」というのも判断の一つだと思います。リアピックアップのカバーはポールピースの穴間のピッチが違うものだったので見た目の違和感がないように若干穴を広げて取り付け。このPUはケーブルがかなり短く通常はFホールを回りこんでボリュームに半田付けされているところが、Fホールを横切ってぎりぎりボリュームに半田付けされています。直流抵抗値もフロントに比べてかなり大きく、過去に交換されたものである可能性が伺えます。ブリッジサドルは1弦のみブラス製、他はオリジナルのナイロン。これは持ち主様が音色調整のためにご自身で交換したとのこと。すべてのサドルがネックよりにセットしてありますがこれでオクターブはほぼあっています。もともとブリッジの位置が理想よりも指板から離れているためこのような並びとなっていて、1,3弦は今回の弦高でオクターブをぎりぎりで合わせています(つまり現状よりも弦高を下げると1,3弦のオクターブはフラットする)。

今回はなるべくパーツを交換しないでメンテするという例でした。勿論演奏性を最高に持ってゆくには問題ある箇所を全て解決してゆく必要がありますが、ある程度演奏技術があれば「多少弾きにくさは許容したメンテを行う」「音の変化を最小限にとどめるために必要なメンテナンスを一気に行わず、少しづつ手を加えてゆく」というのも王道の一つで、そうしたギター弾きこなしているギタリストもかっこいいと思います。一方でどれが正解かはギタリスト自身が決めればよいことで「ヴィンテージだからオリジナル状態を保たなければならない」というわけではありません。プロギタリストの中にはヴィンテージギターにかなり大胆に手を加えている方も多くみられます。貴重なヴィンテージギターをメンテする際はこの辺りをよく検討する必要がありますが、、当店でもそうしたお手伝いをさせていただければ幸いです。

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