フレット交換例① 1980年製Gibson Les Paul Standard

Gibson Les Paul Standard、カラマズー工場最終期の1980年製のフレット交換を実施。

フレット交換例の紹介。ギターはGibson Les Paul Standard、1980年製です。現在のナッシュビル工場の前のカラマズー工場で生産されたレスポールでラージヘッドに3ピースメイプルネック、PUはパテントナンバーが刻印されたものが搭載されています。

もともと打たれていたフレットは幅が約2.8mmのワイドフレットでしたが、過去の擦り合わせによるものか、あるいは最初からそうだったのか(いわゆる「フレットレスワンダー」だったのか)、かなり低く平らになっていました。今回はご依頼主様が試してみたかったというJescarのナロージャンボ(ナローハイ、型番55090、幅2.28mm、高さ1.40mm)に交換しました。

フレット交換前後のネック・指板。元々のフレットに対して新しく打ったフレットは幅が0.5mm狭くなっていますが、元のワイドフレットはフレット頂上がかなりフラットになっていたため、数字以上にフレットの幅が変わって見えます。

 レスポールと言えばマホガニーネックですが、本機は3ピースのメイプルネック。フレット交換前はネック裏の塗装表面がゴム状に劣化してべたつき、手触りが悪かったので、少し研磨を加えて劣化層を取り除いてなめらかな手触りを取り戻しました。
ローポジションのBefore/ After。Afterの方が指板の色が濃いのは専用オイルでコンディショニングを加えているため。また、画像だとわかりにくいですが、BeforeよりもAfterの方が指板の平滑性が出ています。これはフレットを打ち換える前に指板表面を若干削って整える「指板修正」を加えているため。
ミドルポジションBefore /After。10フレットと11フレットの間の指板の6弦側に目立つ打痕があったのも補修しました。
補修部分拡大。指板上の凹みはローズウッドの粉を溶いた樹脂で埋めています。バインディング部分に至っている打痕はバインディングの割れ・欠けと接している指板の割れ・凹みが複合している損傷でした。これは指板側はやはりローズウッドの粉を解いた樹脂で埋め、バインディング側はバインディングの色合いに近い樹脂で埋め、バインディングと指板の境界部分がぼやけた感じを軽減するためにほんの少しだけ上から色を乗せています。
ハイポジション。もともとハイ起き気味だったので、指板修正の際はロー側より多めに指板を削っています。
当店ではフレット交換の際はナット交換も同時に行います(「フレット交換」の作業に「ナットを交換」を含めています。勿論料金もナット交換も含めたものでご案内)。元々は樹脂製らしきナットでしたが、今回はご依頼主様が持ち込まれた無垢牛骨材で制作して取り付け。弦間距離は今回は元々のナットに倣って7.1mmにしています。ナット幅は42.5mm。弦間距離は0.05mm単位で調整していて、6本弦のギターの場合は基本的に各弦の弦間距離は同じにしていますが、お好みに応じて、巻弦側を広めにとったりする事も対応可能です。
フレットサイドはエッジ部の面取りをしています。元々極端に低く平らなフレット(高いところで0.9mm、低いところは0.8mmくらい)だったのが、今回打ったのは高さ1.4mmのナロージャンボなのでかなり弾き心地は変わりました。元の状態に比べるとかなり軽いタッチで運指ができます。指板修正で指板を削っているので、ネックの厚みはその分薄くなっているはずですが、それによりも新しいフレットで高さが増えた分の方がはるかに大きく、かえってネックが太くなった感触もあるかもしれませんがどうでしょう。
フレット拡大。Gibsonオリジナルの状態だとフレット端はバインディングに乗っておらず、バインディング上にフレットの延長のような凸加工がされているのが標準ですが、今回のレスポールではそれがなく、なおかつフレット端がバインディングに乗らないようにフレット両端にテーパーをつけて削ってありました。元々高さのあるフレットを敢えて低く削ったという可能性、フレット擦り合わせを繰り返しているうちにこうなった可能性両方あるかと思いますが、古いGibsonギターだと同様の状態をよく見かけます。多くのメーカーの新品、あるいはフレットを打ちなおしたギターではAfterの画像の通りフレット端がバインディングに乗っていて演奏性はもちろんこっちの方が良好かと思いますが、敢えてフレットを低く削った仕様というのもGibsonの歴史では実在しています。なんでも最初のレスポールカスタム(1954年)はレスポール氏の要望で「フレットレスのような弾き心地」を目指してワイドなフレットを敢えて低く削っていてそれを「フレットレスワンダー」と呼んでいたとか。
今回はペグの徹底的なクリーニングも行いました。ペグは結構音の響きに影響を与える部品ですが、画像のようにクスミをとってきれいにするだけでも変化が出ることもあります。
このギターに乗っていたピックアップ。パテントナンバーの刻印と、製造日と思われる印字が見られます。コントロールキャビティは画像のようにシールドで覆われていました。画像にはありませんが、トグルスイッチ部もジャック部もこのようなシールド仕様となっていました。同年代の日本製ギターでもよく見かける仕様ですが、Gibsonもやってたんですね。

サウンドチェック。まずはクリーン。

 

クランチ。

 

クランチ+ゲインブースト。

当店では本例のようにフレット交換も行っています。フレットは弾き方などによっては意外と顕著に摩耗する消耗部品。摩耗しすぎたフレットだと演奏しにくいのは勿論、ビビりが多く生じたり、極端な場合は音程も怪しくなってくることもあり、そのような場合はフレット交換が必要になります。また、お持ちのギターの弾き心地を変える目的でのフレット交換というのもアリで、例えば今回のように元々よりも背の高いフレットにすることでより軽いタッチで運指でき楽に演奏できるようにアップグレードが可能。

 お持ちのギターが「フレット交換をしなくてはならない状態かどうか」はなかなか判断がつかないことも多いかもしれません。そういった場合も遠慮なく当店までギターを持ち込んでください。ご要望に応じた提案ができるかと思います。

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