フレットを交換する際には「指板表面を薄く削って平滑な面に整える作業」が伴いますが、当店ではこれを「指板修正」と呼んでいます。この作業の主な目的は以下の①ですが、ネックの状態によって②も加わります。また場合によって②のためにあえて摩耗していないフレットを交換するという選択肢もあります。
①指板表面の凹凸を解消して平滑な面に修正、弾きやすさを向上させる。また新しいフレットを打った際のばらつきを極力減らし、フレット擦り合わせでフレットを削る量・フレットごとの削る量の差をできるだけ少なくする。
②ネックの順反りの補正、ハイ起きの補正。
①だけが目的の場合は指板のローポジションからハイポジションまで一様にごく薄く切削、研磨しますが、②も伴う場合はネックのローポジション側またはハイポジション側、あるいはその両方をミドルポジションよりも多めに削ることになります。つまり、指板を削ることで曲がってしまったネックの直線性を作り直します。当然ながらいくらでも削ってよいわけではなく、状況に応じて少し削るといった感じです。今回の例の2本のジャズベースのネックはいずれも②も目的に加えて指板修正を行いました。
今回の記事ではフレット交換全体ではなくあえてフレット交換作業の一部である「指板修正」を紹介させていただきました。「フレット交換」というとどうしても交換するフレットのブランド、サイズや材質、フレット端の仕上げ方法の違いに注意が行きがちですが、指板の修正をどのように行うかもポイントになります。指板修正を行わないで新しいフレットを打ちこむ事も可能ではありますが、その場合、新しいフレットを打った段階でのフレット毎のフレット頭頂点の高さのばらつきが大きくなりすり合わせで削る量も多くなります。さらに、すり合わせ後の各フレットの体積のばらつきも必然的に大きくなると考えられます。なので基本的には「フレット交換を行う際は指板修正もセット」ですが、1階のフレット交換で指板を削る量はわずかですので、「フレット交換の際の指板修正でネックが極端に薄くなる」というわけではありません。
今回の例のJB450Sのネックでは元々のフレットが要交換の状態でしたが、同時にネックの順反りもやや強めでトラスロッドの余裕も心もとなかったため「ネックの順反りの補正」も目的にフレット交換を実施、指板修正によってこれを解消しました。JB62についてはフレット自体の摩耗は少なく交換する必要もなかったものの、ネックの順反りが強めでその補正目的で敢えてフレット交換を実施したという例です。
今回の2本のようにトラスロッドを締めきってしまって順反り調整の余裕がないネックでも指板修正によってその余裕を生み出すことができる場合があります。これによってトラスロッドの余裕が劇的に改善するというわけではありませんが、わずかに余裕を稼げるだけでもそのギター、ベースの可能性は広がります。もし「トラスロッドの余裕がない」という症状でお悩みの方はぜひ当店にご相談ください。
今回のメンテナンスを行ったジャズベース2本の詳細は以下リンクをご参照ください。