フレット交換に伴う指板修正の例/指板修正でネック反り補正

フレット交換・指板修正のためフレットを抜いた状態のジャズベースタイプネック2本。上は2014年製Fender Japan JB62のネック、下は1977年製のGreco JB450Sのネック。

フレットを交換する際には「指板表面を薄く削って平滑な面に整える作業」が伴いますが、当店ではこれを「指板修正」と呼んでいます。この作業の主な目的は以下の①ですが、ネックの状態によって②も加わります。また場合によって②のためにあえて摩耗していないフレットを交換するという選択肢もあります。

①指板表面の凹凸を解消して平滑な面に修正、弾きやすさを向上させる。また新しいフレットを打った際のばらつきを極力減らし、フレット擦り合わせでフレットを削る量・フレットごとの削る量の差をできるだけ少なくする。

②ネックの順反りの補正、ハイ起きの補正。

①だけが目的の場合は指板のローポジションからハイポジションまで一様にごく薄く切削、研磨しますが、②も伴う場合はネックのローポジション側またはハイポジション側、あるいはその両方をミドルポジションよりも多めに削ることになります。つまり、指板を削ることで曲がってしまったネックの直線性を作り直します。当然ながらいくらでも削ってよいわけではなく、状況に応じて少し削るといった感じです。今回の例の2本のジャズベースのネックはいずれも②も目的に加えて指板修正を行いました。

今回指板修正したうちの一本、Fender Japan JB62のネック、古いフレットを抜いた直後の状態。画像では分かりにくいですが、古いフレットの痕が指板のほかの部分よりも少しへこんでいる箇所があります。また、このベースは2014年製であまり弾かれておらずフレットの減りも少なかったのですが、保管環境が悪かったのか比較的ネックの順反りが強めに出ていたため、指板修正を行うためにあえてフレット交換を実施した例です。
今回指板修正したもう一本、1977年製Greco JB450Sのネック、フレットを抜いた直後の状態。こちらも古いフレットの痕が指板のほかの部分よりへこんでいたり荒れていたりしています。元々のフレットはかなり摩耗していたのと浮いている箇所も散見されたのでフレット交換が必要だったのですが、トラスロッドも締まり気味でネックの順反りも強めだったので②も目的に指板修正を実施。
指板修正後。指板表面に映り込みがあるくらいになめらかに磨きこんでいます。
JB62ネックの指板修正後。修正前に見られたフレット溝周辺の凹みはなくなり平滑な面が得られています。
JB62ネック、指板修正の前後でネックを横から見たところ。修正前の画像はトラスロッドは緩めきった状態ですが、結構反っているのがわかります(通常はトラスロッドを緩めきった状態やや順反りがあるくらいに作られています)。修正後の画像は少しトラスロッドを締めてありますが、この状態で指板表面が直線に補正されています。このネックの場合、ハイポジション側はもともと指板部分のローズウッドが薄かったので、そちら側はあまり削らず、ローポジション側を多めに削って修正しています。画像では分かりにくいですがよく見るとローポジション側の指板の厚みは修正後の方が少し薄くなっています。「多めに削って」といっても一番削ったところで0.4mmくらいで極端にネックが薄くなるような修正ではありませんので強度的にも問題はありません。
JB450Sネックの指板修正後。修正前に比べて見違えるほど滑らかになっているのがわかります。
JB450Sネックの指板修正前後、横から見た状態。JB62と同じく修正前の画像はトラスロッドは緩めきった状態で撮影、ネックの反りがはっきりとわかります。修正後の画像はトラスロッドを少しを締めた上で指板の直線を出した状態です。ローポジション、ハイポジションをやや多めに削っていますが先のJB62よりも反りは弱めなので削った量も少なく画像でもほとんど指板の厚みの変化がわかりません。それでもトラスロッドの余裕は生まれています。
指板修正が終わったら、フレットを打ちこみますが、今回の記事では割愛。いずれフレット交換そのものについての記事を上げたいと思います。

今回の記事ではフレット交換全体ではなくあえてフレット交換作業の一部である「指板修正」を紹介させていただきました。「フレット交換」というとどうしても交換するフレットのブランド、サイズや材質、フレット端の仕上げ方法の違いに注意が行きがちですが、指板の修正をどのように行うかもポイントになります。指板修正を行わないで新しいフレットを打ちこむ事も可能ではありますが、その場合、新しいフレットを打った段階でのフレット毎のフレット頭頂点の高さのばらつきが大きくなりすり合わせで削る量も多くなります。さらに、すり合わせ後の各フレットの体積のばらつきも必然的に大きくなると考えられます。なので基本的には「フレット交換を行う際は指板修正もセット」ですが、1階のフレット交換で指板を削る量はわずかですので、「フレット交換の際の指板修正でネックが極端に薄くなる」というわけではありません。

今回の例のJB450Sのネックでは元々のフレットが要交換の状態でしたが、同時にネックの順反りもやや強めでトラスロッドの余裕も心もとなかったため「ネックの順反りの補正」も目的にフレット交換を実施、指板修正によってこれを解消しました。JB62についてはフレット自体の摩耗は少なく交換する必要もなかったものの、ネックの順反りが強めでその補正目的で敢えてフレット交換を実施したという例です。

今回の2本のようにトラスロッドを締めきってしまって順反り調整の余裕がないネックでも指板修正によってその余裕を生み出すことができる場合があります。これによってトラスロッドの余裕が劇的に改善するというわけではありませんが、わずかに余裕を稼げるだけでもそのギター、ベースの可能性は広がります。もし「トラスロッドの余裕がない」という症状でお悩みの方はぜひ当店にご相談ください。

今回のメンテナンスを行ったジャズベース2本の詳細は以下リンクをご参照ください。

Fender Japan JB62

Greco JB450S

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